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赤毛の姫君 ~その四 激情の王妃

あらすじ

神速の剣士に続き、豪腕の剣士までも殺されたリンド姫一行は、宿敵アルフレッドを討つべくハイリットを目指す。
アルフレッド、魔法使い集団『六賢老』、そしてリンド姫一行、とそれぞれが違う目的で動く中、
アルフレッド王の妃もまた、何かを考えているようであった。
その四 激情の王妃
 
 夫が何だか私に隠し事をしているような気がする。
 そう考え始めると、違和感は疑心に変わり、疑心は怒りへと変わっていった。
 きっかけは些細なことであった。ルークを滅ぼし、戦に勝ったというのに、夫のアルフレッドは毎日のように報告を気にして、妙にそわそわとしていた。
 エルヴィアの若き国王、アルフレッドには妻がいる。王妃スリアだ。
 王妃スリアは、エルヴィアが同盟を組んでいる、ホウツ国の王族の血を引いているだけはあり、高飛車で、気位の高い女であった。
 アルフレッドの妃となる前に二度も縁談を受けていたのだが、彼女はそのどちらも断っていた。いや、その縁談自体は政略結婚のためのものなのだから、本来彼女に断る権利などありはしないのだが、スリアはその二人の男の顔が気に入らない、醜い男の夫になるなど死んでも嫌だ、と癇癪を起こし、無理やり白紙にしたのだ。それほどに、面食いで、気が強くて、わがままな女である。
 とはいえ、スリアの命令で彼女の胸像を作ろうとした彫刻家や肖像画を描こうとした画家などは、必ず彼女のことを、まるでこの世の物とは思えない天使のようなお方であった、と口を揃えるのだ。それほどの美貌と魅力を持っているため、王妃としてはこれ以上にないほどの女であるといえるだろう。
 そんな彼女でも、今はアルフレッドの妃となっている。城の中のいたる所に美術品を飾り、装飾を施したエルヴィアの先王の趣味と、アルフレッドの美しい顔を見たときに、ここならば私が嫁ぐにふさわしい、と自ら婚約を申し出たのだ。
 そういうわけで、スリアはエルヴィアにいることにも、ハイリット城で暮らすことにも、アルフレッドの妻でいることにも、ずいぶんと満足していた。
 だというのに、その至福の時を脅かそうとする不穏な影がちらついているということに、スリアは気づいた。
 最近、夫は中々自分のことを相手にしてはくれないし、忌まわしい魔法使い共のいる穴蔵に何度も足を運ぶし、そうしたことを問いただしてもはぐらかそうとする。
 私に隠れて何かをしている。
 そして、アルフレッドはまた従者を一人もつれず、魔法使い達の穴蔵の扉を開けて中へと入っていくのを、スリアは見た。アルフレッドが一体そこで何をしているのか、それは彼女には分からないが、その用事が終わって地下室から出てくるところを見計らって、彼女は声をかけた。
「何をしていたのかしら」
「な! ……なんだスリアか、驚かすな」
 スリアはアルフレッドの顔が一瞬、恐怖に染まったのを見逃さなかった。そういう顔をするということは、自分に何か後ろめたいことをしているのだと、スリアは見抜いた。
「何だとは何よ」
「いや、別に深い意味があっていったわけではない。それよりも、お前、こんなところで何をしているんだ」
 と、アルフレッドははぐらかそうとする。
「そういうあなたこそこんなところに何の用があるというの? ここにはあの忌々しい魔法使い達しかいないはずよ」
「用ってほどのことがあってきたわけではない。いや、なんにせよだ。俺が何をしていようと国王たる俺の勝手だろう」
「……」
 と、アルフレッドは再びはぐらかそうとした。
 やはり、何か怪しい、とスリアは睨んだ。
 そして、スリアは遂に行動に出た。六賢老と呼ばれる魔法使い達が使っている地下室へは、鍵が必要となる。その鍵をこっそりとアルフレッドの部屋から持ち出し合鍵を作らせていたのである。
 一度その場を離れたスリアは、アルフレッドの後をこっそりとつけ、彼が重臣たちとの会議に向かったのを確認した。
 いつものことだから、会議は最低でも一時(二時間ほど)はかかるだろう。スリアはすぐさま魔法使いの穴蔵の前まで戻り、作らせた合鍵を使って扉を開いた。
 薄暗く、先が見えないほど長く続く階段が、そこにあった。とはいえ、階段の一段一段に蛍光石を使っているのか、足元が見えないわけではない。
 スリアは一瞬、降りるのをためらった。単純に怖いと思ったからである。ハイリット城の中はどこに行ってもきらびやかな装飾が施されているのに、この階段にはそれらが全くなく、むき出しのレンガが薄気味悪く見えるのだ。
 それでもスリアは階段を下り始めた。
 しばらく階段を下りていると、スリアはふと、奥からなにかが香ってくることに気づいた。そして、その匂いは奥へ進めば進むほど強くなっている。お香の匂いに似ている、とスリアはふと思った。しかし、今までに嗅いだことのない、不思議な匂いである。
 ふと、スリアは自分でも気づかぬうちに上着を脱ぎ捨てていることに気がついた。真冬だというのに、全身から汗が吹き出るほどに暑いのだ。
 と、スリアは息が上がっているが、なんとか最下層にたどり着いた。そこには二つ目の扉がある。この扉の鍵も、手に持っている合鍵で開いた。
 そして、六賢老の地下室の扉を開いた瞬間であった。
 まるで封をしていたかのように、部屋から強烈なお香の匂いがスリアの全身を包み込んだ。と同時に、お香の匂いを思いっきりと吸い込んでしまった。
 途端に、膝に力が入らなくなり、動悸が激しくなり、そして世界がぐるりと回転して、スリアはその場に倒れこんでしまった。全身をがたがたと震わせながら、白い肌を桜色に染め、荒々しく息をし、スリアは身体が燃え上がるように熱くなっていることに気づいた。
 だんだんと意識が遠のいていく中、スリアは目の前に広がる光景に驚愕した。ゆらゆらと揺れる松明の炎に、艶かしい女達の裸体が照らされているのだ。
 その光景を最後に、スリアは意識を失った。
 
 目を覚ますと、スリアは自室のベッドの上にいた。
 まるで二日酔いでもしているかのように頭が痛み、思わず顔をしかめながらも、あたりを確認した。
 と、スリアはぎょっとした。
 部屋の隅に、ローブを着ている老人がいるのだ。
「ぶ、無礼者! ここを誰の部屋だと心得ておる!」
 がばりと起き上がると、スリアは大声で老人に向かって怒鳴った。王妃の部屋であるという前に、女性の部屋に入り込んでいる老人に、彼女は激怒したのだ。と同時に、頭痛が激しくなり、頭を抱え込んだ。
「……どうやら大丈夫のようでございますね」
 老人は落ち着いた口調で、ぼさぼさの長い髭を揺らしながらそういった。
「この際、何故あなた様がかような場所においででしたのかは聞きますまい。しかし、スリア様、恐れながら申し上げますが、六賢老の地下室には二度と近づかぬようお願い申し上げます」
「……」
「あの地下室には毒が充満しております」
「……毒とな? 妙なことを言う。ならばあそこにいる魔法使い達は毒を吸いながら籠っておるのか?」
「……そうですな。毒とは申しましたが、正確には常に香を焚いておるのでございます。地下室で妙な匂いがしませんでしたかな?」
「……した。甘いようでいて、吐き気のするような匂いがした」
「あの香の香りは、女の心を惑わし、性的な欲求を強める効能があります。そしてその効果たるや、幼子から老婆にいたるまで、あらゆる女を獣のようにさせるほど。ただしこの香の香りを嗅げるのは女のみ。男にはまるで無害という代物にございます」
「……」
「それゆえ、我ら魔法使い集団、六賢老の中で唯一の女性である、『千里眼のグレア』は、あの部屋に近づきすらしませぬ。それほど強力なものなのです」
「……」
「あの部屋を使っている六賢老たちによると、本来あの香は徐々に慣らしていかなければならないほどのものだといいます。香の香りが充満した部屋に急に入ったため、スリア様は気を失われたのでしょう」
「……」
「時に、お体のほうは?」
 そういわれて、スリアは顔を赤らめた。香のせいとはいえ、今、淫らな気分になってはいないかと聞かれたようにも思えたのだ。
「これは失礼いたしました。私としたことが、少々軽率でございましたな」
 スリアは特に体調に問題はなかったのだが、そう言われるとまるで今も、その香にあてられているようだと、スリアは顔から火が出そうな思いであった。
「……体調は問題ない。強いて言うなら、ひどい頭痛がするだけぞ」
「そうですか。ではそちらに頭痛薬がありますので、お飲みになられたらゆっくりと休まれたほうがいいでしょう」
 老人が立ち上がった。
「そういえばひとつ、言い忘れておりましたが、あなた様が寝込んでいる間に一度、国王陛下がおいでになられました。もうしばらくしましたら、また様子を見に来るでしょう」
 そういうと、老人は出口に向かって歩き出した。正面からはあまり分からなかったが、ずいぶんと長い髪をしている。
「その方、名はなんと言う?」
「六賢老が一人、『賢老のジン』にございます。では」
 
 魔法使いが置いた薬を飲むと、一刻もしないうちに頭痛が引いた。
「あの老人、『賢老のジン』といったな……」
 スリアはふと、この城の図書施設に入り浸っている二人の魔法使いを思い出した。一人は醜い老婆、一人は毛の長い老人。彼女は図書施設で魔法使いを見たことはないが、少なくとも先ほどの魔法使いがその老人であると考えた。
 となると、図書施設に行けばアルフレッドの隠し事が何なのかが分かるかもしれない、とスリアは考えた。魔法使いなど信用できないし、何よりもあのような下劣な者共の近くに行くというだけで鳥肌が立つ、とは考えはしたものの、この際仕方がない、と彼女は自分に言い聞かせた。
 そうしてこの国が誇る、巨大図書施設まで来てみれば、スリアはいつものようにその膨大な書物の量に驚かされた。何度見ても圧巻である。書物の状態を保つため、日光は完全に遮断されており、湿度も管理されている。
 ろうそくの明かりだけが頼りの薄暗い書架を奥まで進むと、突き当たりに魔法関連書籍と書かれた看板のついた部屋があった。中に人がいるためか、扉の隙間から一筋の光がこぼれている。
 スリアはその扉をわずかに開き、中の様子を覗った。
 すると、中には先ほどの老人と、背が低く、両目のない醜悪な姿の老婆がいた。いや、特筆すべきはそこではないだろう。スリアが目を見張ったのは二人の姿よりも、部屋に浮いている銀色の液体である。液体は空中に浮きつつ、鏡のように人の顔を映していた。
 ただし、映しているのはその場にいる人間ではない。そこには見たことのない人間の顔が映っていた。
「いや、待て。ここまで来ているということは、姫君にも相応の覚悟があるはずだ」
 と、ジンという老人魔法使いが言った。
「最悪の場合、自害されるなんてこともありうる。ここは一度ハイリットに入れ、ハルスの幻術かグラフの魔法で抵抗できないようにしてから国王陛下に渡したほうが良かろう」
「ほっほっほっ。相変わらず、慎重でございますな」
「陛下が無傷で捕らえよとのことなのだから、慎重すぎるぐらいが丁度良かろう。まったく、まさか陛下がルークの姫君を側室にしたいと言い出すとはな」
 それを聞いたスリアは狼狽した。
「アルフレッドが……、私以外の……、それも敵国の女を妾に……?」
 婚約してから数年、アルフレッドは一度も側室を持つことはなかった。だからこそスリアは自分が大切にされていると実感しており、実際アルフレッドも彼女を深く愛していた。そのことは王妃として、女として、誇りに思っていたのだ。
 だというのに、アルフレッドは彼女には内緒で側室を持とうとしている。いや、彼女にしてみれば、自身の美貌に自身があるだけに側室が現れようと問題ではないのだが、何よりも影でこそこそとしていることが気に入らなかった。
 部屋の鏡には、二人の魔法使いが姫と呼んでいる女の顔が映し出されていた。金の髪に雪のように白い肌。中々に美しいが、どこか儚そうな印象のある女だ。
 こんな女に、とスリアの中でめらめらと嫉妬心が燃え上がった。
 と、ジンがこちらに向かって歩いてくる。
 スリアは慌てて身を隠し、そのまま図書施設から外に出た。
 
 夫は私に秘密で妾を持とうとしている。その相手の女は敵国、ルークの姫君で、エルヴィアの首都であるハイリットの近くまで来ている。魔法使い達の考えでは、ハイリットに進入した後で捕まえ、城まで拉致する気でいる。
 城の廊下を歩きながら、スリアは二人の魔法使いが離していた内容を頭の中で整理しようと必死になっていた。
 アルフレッドの隠し事が分かり、事情を飲み込んだスリアは、私からあの人を奪おうとするなんて、と次第にルークの姫君を憎むようになっていた。
「誰か、ヤルドを呼んで」
 自室に戻ったスリアは、侍女にそういって、一人の男を部屋に招き入れた。
「お呼びでしょうか、スリア様」
 アルフレッドの臣下の一人であるヤルドは、傷だらけの顔の、屈強そうな男である。鬼のような気迫のある今のスリアに負けず劣らずの凄みのある男だ。
「あなたに頼みがあります」
「何なりと」
 と、ヤルドはひざまずき、頭を垂れながら、低い声で言った。
「実は、この国にルークの姫君が忍び込んでいるらしいのです」
「……その話はどこで?」
 信じられないといわんばかりに、ヤルドは目を見張り、スリアを見上げた。
「アルフレッドから……。だけれど、おそらくあの人はこの事を臣下だけでなく重臣にも伝えないでしょう。国王となったばかりだというのに、このような事態を招いたことが露見するのは、王としての威信に関わります。それに、城内での不穏を招きかねないでしょう?」
「なるほど、仰るとおりですな」
「そこで、あなたにこの賊共を秘密裏に、血の一滴も残さず始末し、闇に葬ってほしいのです」
「ははっ!」
「賊はハイリットのすぐ近くまで来ているそうです。よもや、単身で乗り込んでくることはないでしょうから、おそらく従者と護衛がいるはずです。今はトールで大きな祭りもありますし、集団でハイリットに来る人はそういないはずですから、探すのは楽かと思います」
「分かりました」
 と、スリアはここで、悪魔のような考えを閃いた。
「……そうそう、ひとつ言い忘れていましたが、この件にはあの忌まわしい魔法使いたちも絡んでいます」
「と、いいますと?」
「どこでこの話を嗅ぎつけたのか、魔法使いたちも賊の暗殺に乗り出しているようです。おそらく、誰にも気づかれないうちに手柄をたて、アルフレッドに媚を売るつもりでしょう。ただ、そのようなことになれば、あなた達の立場というものもあるでしょう? だから、魔法使いたちよりも先に賊を始末なさい。もし魔法使いたちが邪魔立てするようでしたら、斬り捨ててもかまいません」
「ははっ!」
「では、任せましたよ」
「ははっ!」
 こうして、スリアはルークの姫君たちと、さらには六賢老さえも消そうと刺客を放った。全てはアルフレッドに対する行き過ぎた愛と怒りがゆえであえる。




はい
ちょろっと読み直しましたけど(前の話も
相変わらず誤字脱字が多い(;^ω^)
正直、直す前の原稿をネットに上げるのは一番恥ずかしいんですけど
まあ、明日には忘れているか☆
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