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赤毛の姫君 ~その伍 天下一の鍛冶師

あらすじ

リンド姫は宿敵アルフレッドを討つために
アルフレッドはそのリンド姫を側室にするために
アルフレッドの妻は、リンド姫が側室になることを阻止するために
六賢老のジンは魔法使いの地位を上げるために
残りの六賢老たちはリンド姫の護衛である女剣士を手に入れるために

行動を始めていた。

一方、リンド姫たちが探している男は、アルフレッドの支配している領内にいた。
その伍 天下一の鍛冶師
 
 鍛冶師、槌田鉄心(つちだてっしん)は驚いた。
 まさか、この国で自分と同じ出身の人間に出会うとは思ってもいなかったからである。
 それだけでなく、鉄心が会ったその男は、初対面であるこの老人に対して、刀を一振り打ってほしいと頼んできたのだ。さすがの鉄心も、これには声をあげて驚いた。
 しかし鉄心は、さすがにもう年寄りだから、鍛冶場を弟子たちに任せているし、刀を打つつもりもないし、打つ体力もない、と男に伝えた。それに、たとえ打てたとしても、弟子たちに鍛冶場を渡してずいぶんと年月がたっているだけに、技も衰えているから、満足のいく一本が打てるかも分からない、とも伝えた。そして鉄心は最後に、本来、刀鍛冶の仕事は刀身を作るところで終わり、ハバキ、鞘、研磨はそれぞれ別の職人が行うのだが、もちろんこの国にそれらの職人がいるわけではなく、そうした工程も全て行うのには、体力がない、と付け足した。
 なるほど、と男が納得すると、ではその弟子たちは刀を打つことができるか、と訊いた。
 おそらく打てるではあろうが、本物の刀を知っている男に満足のいく一振りはできないだろう、と鉄心は返した。というのも、この国では刀の扱いに長けているものなど全くおらず、両刃の直剣の需要のほうが高いため、弟子たちはそうした西洋剣しか作っていないからだ。この鍛冶屋では西洋剣を作るとき、鉄心の技術、刀を作る上で必要とされる製法を取り入れてはいるのだが、弟子たちのそれでは刀を作ろうとしても形だけを模したまがい物しか作れないのだ。
 では、過去に打った刀はないか、と男は尋ねた。今は作れなくとも、過去に打ったものは残っているだろう、と考えたのだ。
 しかし、鉄心はこれにも苦い顔をした。確かに過去に何本も刀を打ってきたが、需要が低いものは注文があったときにしか作らなかったため、ここには一本も刀が残っていないのだと、鉄心は申し訳なさそうにうつむいた。
 そこで、鉄心はふと、男がなぜ刀を必要としているのかを尋ねた。ルークとエルヴィアの戦は終わったわけだし、当面は人を斬ることもないだろうし、何よりも、刀に固執することに興味を抱いたのだ。
 すると男は、天下一の武士(もののふ)となるためには、天下一の刀が必要だ、と生意気な小僧のように自身に満ち溢れた笑顔で高らかに答えた。
 自ら天下一を称するこの男の顔が、大うつけであるように見えたが、しかしそのうつけの笑顔に鉄心の心は確かに動かされた。
 男の若さにあてられたというよりは、その愚直なまでに己が武を信じきっている姿に、年寄りながらも男心をくすぐられたのだ。
 鉄心は男の名を尋ねた。
 男は吉岡重蔵(よしおかじゅうぞう)と名乗った。
 そして、鉄心は重蔵に刀を打つことを約束したのだった。
 
 その日、鍛冶場にいた職人達は、一人残らず驚愕した。
 引退して以来、ずいぶんと長い間、接客しかしていなかった親方が、愛用の槌を持ち、作業着を着て鍛冶場に来たのだ。弟子達は親方の出身国がどのような所なのかを知らないのだが、親方のその背中を見たとき、まるで死装束を纏っているかのように錯覚した。
 しばしの間、阿呆のようにただ口をあけて見ていただけだった弟子達であったが、親方が、ぎっと強く鉢巻きを締めたのを見たその瞬間に我に返った。
 何をしているのかと、声を裏返しながら、弟子の一人が親方の下に駆け寄った。
 すると、親方はあろう事か、これから注文を受けた一振りを打つ、と言った。
 さすがに歳が歳だし無茶なことを言わないで欲しいと、大慌てで悲鳴のような声を出す弟子の言葉など耳に入っていないのか、その弟子を全く無視しつつ、親方は弟子の二人の名前を怒鳴りつけるように呼んだ。
 呼ばれた弟子達は、親方の技法を最もよく盗め、吸収できた一番弟子と二番弟子であった。その二人の弟子は、声を裏返しながら親方の前まで稲妻のような速度で出ると、自分よりもずっと身長の低いこの老人の凄まじい気迫に思わずひるんだ。
 親方はまず、懐から鍵を取り出すと、金庫に入っている箱を持って来いと命令した。言われるままに重い箱を持ってくると、親方は箱をゆっくりと開けた。
 箱の中には、加工された鋼が入っていた。良質な鋼である。二人にはその鋼が、まるで宝石のように見えていた。箱の中に、上質な布に包まれていたところを見ると、あるいは死ぬまで大切にしていた鋼であろう。
 親方はその鋼を炉で熱し、溶かし、ひとつの塊にすると、それから二人の弟子に、手伝えと乱暴に命令した。しかし、手伝えといった割に、二人の仕事は全体の工程の中でも最初だけだった。
一体この老人の、枝のように細い腕のどこにそれだけの力があるのか、がりがりの身体のどこにそれだけの体力があるのか、鉄心は一心不乱に槌を振った。
 その場には既に、親方に声をかけるものは一人もいなかった。自身の血と汗、積み重ねてきた経験と技術、そして刀匠としての誇りと魂、それら全てを刀に吹き込むように槌を振る鉄心の姿を、誰もが固唾を呑んで見守っているのだ。
 そうして、その日は夕暮れまで老人が刀を打つ音だけが、工房の中に響き渡っていた。
 
 後日、吉岡重蔵は刀を受け取りに再び鉄心のもとにやってきた。
 できたか、という重蔵の問いに、負けず劣らず鉄心は力強く、できた、と答えた。
 そして、鉄心は鞘に収められた、一振りの刀を差し出した。
 受け取った重蔵は、鞘から刀を抜いた。刀身そのものがまるで芸術品のように美しい刀であった。重蔵はしばし、刀身をうっとりと眺めると、鞘に収め、素晴らしい一品だ、と鉄心に賞賛の言葉を送った。
 そうして重蔵が頭を下げた瞬間であった。鉄心が重蔵めがけて竹筒を投げたのだ。
 これに対して、重蔵は凄まじい速度で鞘から刀を抜き、竹筒を斬った。
 かこっ、と軽い音が二つした。竹筒を斬る音はしなかったというのに、重蔵の足元には真二つになった竹筒が転がっていた。凄まじい切れ味だが、刀の力を十分に発揮できるのは、重蔵の腕があってこそといえる。
 じいさん、あんたは日の本一、いや天下一の刀匠だ、と重蔵に言われ、鉄心は気恥ずかしそうに笑ったが、これに対して鉄心は、いい刀は腕のいい者に持たせるにかぎる、と返した。
 二人して大笑いした後、重蔵は懐から金を取り出したのだが、鉄心は慌ててその手を収めるように言った。
 これだけの業物を作ったというのに、重蔵殿の依頼がなければ刀鍛冶として最高の仕事をする機会はなかったわけだから金は取らない、と言うのだ。
 さすがに重蔵も驚いた。そして重蔵は、金を払わないわけにはいかない、いや、むしろ払わせてくれ、と頼んだのだ。
 ただでよいと言っているのに、自分から払うと言う重蔵の愚直なまでの素直さに負け、鉄心は金を受け取ることにした。
 そうして満足そうに刀を腰に帯びた重蔵の姿は、来たときよりもずいぶんと力強く、男らしく見えた。
 
 重蔵に刀を渡した夕方のことである。
 鉄心はいつもよりも早めに帰路についた。
 さすがに前日の大仕事の事もあって弟子達も心配していたため、工房を弟子達に任せて先に帰宅したのである。
 そうして自宅の玄関扉を開き、靴を脱ぎ、家に上がると、鉄心はまっさきに妻の部屋へと向かった。
 そこは、手作りの小さな木彫り人形が一つあるだけの、どこかさびしさのある部屋であったが、窓から眺めることのできる美しい夕焼けで、鮮やかに彩られていた。
 鉄心は、木彫り人形に向かって妻の名前を呼ぶと、自分が出会った武士のこと、これ以上にないほど素晴らしい仕事ができたこと、そして少々弟子たちの愚痴を、はしゃぐ子供のように楽しげに話した。そうして、夕日が沈みかけて、部屋も暗くなり始めた頃、もう何も思い残すことがない、と鉄心はやさしい口調で、やさしい笑顔で言った。
 そして、その数日後に、槌田鉄心が妻を模した小さな木彫り人形を抱えたまま、布団の中で息を引き取っているのを、弟子によって発見された。
 その弟子曰く、鉄心の死に顔は、実に満足そうで、それでいてみたことがないほどやさしい表情であったという。




はーい
とりあえず全部一度、出しちゃいます
修正は未定
今書いてるほうを優先するのが当たり前なので
気が向いたらって事で☆
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