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別館
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成上市都市伝説編 六月二十三日、月曜日。 そこかしこから聞こえてくる生徒たちの笑い声や、話し声がまばらになりはじめた頃、朝村香苗はそのいずれにも耳を貸すことなく、実に深刻な顔をして部室棟の廊下を歩いていた。 目的は、部室棟最上階の隅に追いやられている部室、オカルト研究部の部屋である。 朝村香苗は、オカルト記事担当とはいえ、新聞部の部員である。他の部との交流もそれなりにあるが、とはいえ、他の部を掛け持ちしたりなどはしていない。その彼女が、最終下校時間の目前にしてオカ研に向かっていたのには、訳があった。 オカ研の部室前にやってきた香苗は、二度、三度、一度、と部室の扉を叩いた。ややあって、どうぞ、と中から声がしたのを確認して、香苗は中に入った。 暗い部屋である。さすがに日が沈みつつある時間であるとはいえ、それにしてもその部屋は異様に暗かった。 部室内には、しっかりと暗幕がかけられているのみならず、写真部並みに、徹底的に日光の侵入が防がれていた。例えば、たったいま香苗が開けた引き戸もそうである。教員や用務員などが中の様子を確認することができるようの窓が、他の部室や教室と同じように取り付けられているのだが、それを、厚紙を使って完璧に塞いでいるのである。それだけでなく、入口付近にはつい立が立てかけられており、引き戸を開けた際に入る光すら防いでいるのである。
「やあ、アサムラさん……」 部屋の奥から、声が聞こえた。 声のした方向に顔を向けると、 ぼう……。 と、橙色の淡い明かりと共に、人の手と、妖しい表情をした男の顔が、明かりを中心に薄ぼんやりと現れた。 「ようこそ……。今日はどうしたんだい……?」 どこか、色と艶のある声で、男は酔ってしまいそうなほどに優しく問いかけた。 「……」 それをしばらく眺めていた香苗は、すぐ近くにあったボタンで蛍光灯を点灯させた。 瞬間、ぱあと眩い明かりが部屋を強く照らし、同時に、 「ああ! 眩しい!」 そこにいた男が目を覆いながら転げた。 男の姿をあきれた様子で見ていた香苗は、やれやれと肩をすくめると、部室の中を一瞥した。 今日も変わりなく、オカ研の中には妙な呪具や魔導書らしきもの、オカルト雑誌などが散らかっており、新聞部といい勝負だと香苗はため息をついた。 「酷いじゃないか! アサムラさん! 人がせっかく雰囲気を出してあげてたのに!」 言いながら、男は燭台の置いてある机に手をかけ、よろよろと立ち上がった。 この男が、オカルト研究部の部長の三年生、陽見太一(ひるみたいち)である。 陽見太一は、元々は新聞部の部員であった。当時は学内で流行っていた噂話や都市伝説を題材にしたオカルト記事ばかりを書いていたため、今でも変人扱いさえされているのだが、とはいえ、彼は集めた噂を実際に検証せずに記事にすることはなかった。 これは、不確かな情報を載せるわけにはいかないという、新聞部としての誇りがあったからに他ならないのだが、ともかくとして、太一は今、新聞部を辞めてオカ研の部長になっている。 「それで? 噂の柳瀬、牧原の二人と、七不思議検証をしたんだろう? 何か変わったことはあったかい?」 と、太一は整えられていない、ぼさぼさの頭をかいた。 「そう。それですよ。……今、部室にいるのって私と先輩だけですよね?」 「もちろんだとも。でなきゃ、何のためにノックの回数を決めたのか」 「分かりました。……じゃあ、この話は、他言無用でお願いしますね」 太一が机につくと、香苗はその正面に立った。そして、鞄から金曜日に撮影した写真の束を出し、机の上に広げていった。 それから香苗は、六月二十日に起こった出来事を、ほぼ包み隠さず語った。 香苗はあの日から、新聞部はおろか、友人たちの誰にも深夜の学校探検で起こったことを話していない。もちろん、小夜子や夕美に言われた通り、他言しないという約束を守るためであるが、だというのに、彼女は目の前の男に、自分が見たことや経験したことを話したのである。 噂とは、得てしてこういったものである。 ここだけの話。他言無用の話。というものは、結局のところ『ここだけ』の話にはならない。確実に次の人へ、次の人へと、人の意志とは裏腹に渡っていくものである。 ゆえに、噂は『独り歩き』するのである。 「ふうむ……。なるほど……」 香苗の話を聞き終わった後、太一は無精ひげをいじった。 「七不思議、美術室のお札に、こっくりさん……。そして、開かずの門か……」 そして、落ち着いたいい声で、太一は言いながら、写真や、香苗のメモを見た。 「確かに、この学校は鬼門の方角にあるわけだから、あの世に繋がる門が現れても不思議じゃない、か……。……それに、こっくりさんで『狗』を呼んだのも、鍵の一つだろうね。しかし、よくとっさに『狗』を呼ぼうって思ったね」 「それは、お札に狗の絵が描いてあったからですよ」 「ああ、七不思議にもあるお札か」 「そうそう。ちなみに、これが美術室にあったお札の写真です。ここに来る前にちょっとよって確認したんですけど、その神社の絵はやっぱりなかったんですけどね。見えないだけかもしれないですけど。お札の写真、撮っててよかったです」 そう言いながら、散らばった写真の中から夜子神社御護符と書かれたお札の写真を、香苗は見せた。写真越しであるとはいえ、相変わらず痩せ細った不気味な獣が描かれたそのお札を見ていると、妙に気分が落ち着かなくなるものである。 「ヤコ神社って、先輩知ってます?」 「ヨルコ神社だね」 即答した太一の言葉に、香苗は数瞬ほど、口だけでなく表情まで固まった。 「……え? 知ってるんですか?」 「ん……? 知らないの? アサムラさんて、もしかして他県出身?」 「いえ。生まれも育ちも成上市ですよ。隣の区ですけど」 「ああ、じゃあもしかしたら知らないこともあるかもね」 「ちょっと待ってください。どういうことですか」 机を叩き、身を乗り出して香苗は太一を睨んだ。 「何か知ってるんじゃないですか? だいたい、さっきの『鬼門の方角』だって、おかしいなって思ってたんですよ。成上校って、この辺りの地区で言えば南の方にあるわけですし、この区だって市から見れば西側ですよ? 牧原さんも鬼門の方角にあるって言ってましたけど。どういうことなんですか?」 「なんだって? 一条小夜子が、それを言ったの?」 ふうむ……。と、太一は無精ひげに手を当てながら、深く考え込んだ。 「てっきり、一条小夜子が同行したのは、キミたちを監視するためかと思っていたけど……」 「待ってくださいってば。ここでの話はギブ&テイクじゃないですか。先輩も、今回のことで知ってること、教えてくださいよ。そもそも『成上校七不思議』の話を持ち出してきたのは先輩なんですから」 と、香苗はまくしたてた。 「ところで、アサムラさんは、祟りとか、神罰とかって、信じる方?」 香苗の勢いに押されそうになるも、しかし、太一はぐっとこらえ、続けた。 「話をそらさないでください。私は祟りとか怖い方なんで、信じてると言えば信じてますけど」 「そうか……。ちなみにボクは信じていない」 そう言うと、太一はばりばりと頭をかき、辺りにフケが飛び散った。 「ボクはね。本当のことを言うと、祟りとか、心霊現象とか、超常現象とか、そういうものはまったく信じていないんだ。新聞部でオカルト記事を書いていたのだって、学校内で独り歩きしている根も葉もない噂の真相を突き止めて、確かな事実を公表するためだったぐらいだ。……まあ、おかけで妙にオカルト話に詳しくなったけど」 香苗は、思わず阿呆のように口を開けたまま、言葉を出せなくなってしまった。このオカ研部長にあるまじき発言に驚いたこともあるが、それよりも、彼がこの話をする真意が分からず、困惑したのである。 「ただ、この街で『発生』する噂は、どこか普通じゃないと思っている」 「……あの。何の話をしてるんですか?」 たまらず、香苗は手を上げた。 「成上市の『伝説』の話だよ」 太一は立った。そして、部室の奥へと歩いていき、暗幕を開けた。 部室棟の、最上階の、隅の部屋。 その窓から見える景色は、学校が丘の上に建てられているということもあり、茜色に染まった街並みを一望できるものであった。だが、夕闇迫る黄昏時の光景は美しくもあるが、それ以上に何か、得体の知れない妖しさがあった。 静かな時間の中で、二人は同じようにその身を赤に染めてた。 「……。……雰囲気出したいだけですよね?」 「あっ。分かる?」 「ギブ、アンド、テイ、クー」 不服そうな顔をしながら、香苗は両手を差し出した。 「いやあ、それなんだけどね。ボクを間に挟んで聞くよりも、自分で調べた方がいいよ。牧原美奈子のこと、一条小夜子のこと。この街のこと」 「はあ……」 「特に、一条小夜子に言われたのなら、成上市の『都市伝説』を手当たり次第しらべるといい。調べていれば、おのずとキミが求めている答えが出てくるだろう。……それに、たぶんだけど、それがあの人たちの目的だろうから」 「あの人たちって、牧原さんたちですか?」 「それは言えないね。さすがにボクも、祟られたくないから」 「祟られたくないって、さっき祟りとか信じないって言ってたじゃないですか」 「ところで、鶏内(かいうち)は、一条小夜子のこと、どのていど調べてる?」 「ちょっとお! また話そらして!」 「まあまあ。待ちなよ。重要な話なんだ」 と、太一は神妙な面持ちで、いつものように穏やかな口調で言った。 そう言う表情をしている時は、本当にまじめな話をしている時である。太一との付き合いはまだ短くはあるが、それが分からない香苗でもなかった。 それから香苗は、ここ最近の、新聞部の鶏内先輩のことを思い出した。いつも病的に青白い顔をして、がりがりに痩せ細った気味の悪い男である。思い出そうにも、ろくでもないあのいやらしい目つきしか出てこない。 「鶏内先輩の、なにが気になるんです?」 「ボクは、あの男のことが心底気に食わない。新聞部を辞めたのだって、あいつがいるからだと言ってもいい。だけど、だからこそともいえる。あいつの考えていることはだいたいわかる。……鶏内は、一条小夜子のことを調べあぐねてるだろう?」 言われて、香苗は思い当たる節があった。鶏内は、人の触れられたくない秘密や、家庭のことには土足で踏み込むし、禁忌とされていることにも平然と首を突っ込み、絶対と言っていいほど何かを見つけることが上手い男だ。その男が、ネタとしては最高の題材であろう一条小夜子と柳瀬夕美に対して、今まで手を付けず、それどころか、香苗から手がかりを取り上げようとした。あの男にしては異常な行動と言わざるを得ない。 「あの鶏内先輩が祟りを怖がってるって? まっさかあ……。大体、先輩だってそんなこと言って、本当は何とも思ってないだけでしょ? いつもみたいに、ただ雰囲気を出したいだけなんじゃあ……」 香苗が訊くと、太一は何かを考えているのか、それともためらっているのか、数秒ほど黙った。そして、顔を上げた時には、今までに見たことのないような困り顔をしていたため、香苗はこれ以上きかない方がいいのだろうと、察した。 香苗が帰った後、陽見太一は部室内の資料棚を漁った。 重要な書類を、一条小夜子に関わるものを探していたのである。 ところが、自らしたためたその資料は、いくら探しても見つからなかった。 どこに収めたのか、それを覚えていないのではない。知らないのである。 と、太一はため息をつきながら、椅子に腰を掛けた。 そして、懐から生徒手帳を取り出し、中にはさめてあった紙片を見た。 『一条小夜子調査記録 気をつけろ』 それは、確かに自分の筆跡で書かれたものなのだが、太一にはそれを書いた覚えがなく、同時に、調査資料をまとめた覚えもなかった。成上にまつわる伝説や伝承を記録したことは覚えているというのに、そこに関わる一条の事だけが、記憶になかったのであった。 成上校都市伝説編 前回までの七不思議編は PS『トワイライトシンドローム』や、映画『学校の怪談』の影響が強かったですが 今回からの都市伝説編は PS『夕闇通り探検隊』、高橋葉介先生の『学校怪談』からの影響が強い この編は色々と仕掛けを用意していたり 一条小夜子や柳瀬夕美についての話がメインで来ることもあるので 物語的には重要なところが多い もっとも、物語自体は一話完結形式なので 単品ごとに読んでも面白いように作ってある(前後関係はある程度あるにせよ ここからは、短編をよりうまく書くことを要求されるから、中々大変 でも楽しい ちなみに この小説 というか小説書く時間帯ってだいたいそうなんですけど いつも深夜に書いてるんだ ……正直 不気味なことを考えながら書いてると ちょっと怖い PR コメントを投稿する
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