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今は遠き夏の日々 ~学校七不思議編 その十二~

 成上校七不思議の噂

 夜の学校探検のあった、翌週の事である。
「柳瀬さーん。見てください、これ。金曜日の写真、現像できましたよ」
 昼休みになって、香苗は昼も食べずに、まっさきに夕美のもとを訪れた。夕美のいる教室に入ると、彼女は昼休みになったというのに机に伏せて眠っていた。
「起きてくださいよう」
「うるさいなあ。何か写ってんのかよ?」
 目元をおさえながら、夕美は写真を受け取った。
「それがもう、ばっちり。私、生まれて初めて本物の心霊写真撮っちゃいました」
「なになに? こないだの写真?」
 と、小夜子が自分の机から弁当箱を持ってやってきた。
「そうですよ。見てくださいこれ」
 香苗が見せたのは、赤い鎧武者が階段から上がってくる途中の写真や、音楽室のピアノを演奏する女性の写真であった。だが、それを心霊写真とするには、あまりにも地味なものである。
「なんだかパッと見、心霊写真なのかどうかわかりにくいわね」
「だから、心霊写真ってのはそういうもんなんだってば。それより朝村よ。学校新聞の方はどうなってんのさ」
「ふふふ。勉強する間を惜しんで書き上げました」
「いや、勉強はしなよ。……あと、なんかお前、妙に元気じゃない?」
「だって、冷静に考えてみたら、これからはこういうことの検証がしやすくなるってことじゃないですか。なかなかできない経験もさせてもらいましたし」
「たくましい女だな……」
 えへんと胸を張る香苗を見ながら、夕美はそう言って大きく伸びをした。
「それじゃお昼食べる前に、わたしちょっとカワヤ行ってくるね」
「はいはい。行ってらっしゃい」
 そうして、夕美と二人になると、香苗は小夜子が教室から出たのをしっかりと確認した後で、懐から別の写真を取り出した。
「ところで、柳瀬さん。この写真、どう思います?」
「……」
 写真を受け取った夕美は、目を見張ってそこに写っているものを見た。
「これ、いつ撮ったんだよ」
「柳瀬さんとはぐれた時です。私たち、図書室で柳瀬さんがいないことに気がついたんですけど、その時に、なんとなく撮ってみたんです」
 その写真は、深夜の図書室の中を歩く、小夜子の写真であった。ただ、そこには小夜子だけがいるのではなく、彼女の周りに何人もの人影が写りこんでいるである。
「なんで撮った?」
「もしかしたら、マキ……イチジョーさんに憑りついたものとか、写ってるかもしれないって思ったんで。……あの、これなんだと思います?」
 再び、夕美は写真を見た。被写体である小夜子が中心に、彼女と同じ方向を向いて歩いているように見える影たち。妙に生々しく見える薄黒い人型を見ていると、次第に不安な気持ちになってくる。そう言う写真である。
「……分からない。分からないけど、……なあ、これ、小夜子に見せたか?」
「いえ、まだですけど」
「じゃあ、アタシが預かっとく」
 と、夕美はその小夜子の写真をかばんの中に入れた。
「あっ。ちょっと待ってくださいよ」
 写真を奪われた香苗は、そう言いながらも、すぐに写真を取り返すことを諦めた。いや、そもそもネガを持っているのだから、取り返す必要がなかったのである。
「もしかして、ヤバイ系なんですか?」
 ネガのことを隠したまま、香苗は言った。
「それも分からない。……ただ、気になることがあってさ」
 そう言うと、夕美は鞄から、この地方のローカル新聞を取りだした。
「この記事、見てみな」
 言われて、香苗は夕美が指差している記事を読んだ。
「ええと? 六月二十二日、日曜日の昼過ぎ、成上市成上町三丁目のマンションに住む女性と、女性の長男、次男の遺体が発見された。発見当時、遺体は部屋中ばらばらに散乱しており、その損傷状態から考えて大型動物によって殺害された可能性があるということが、捜査関係者への取材で分かった。成上市警察署は、死亡した女性の夫を死体遺棄と殺人の容疑で現在捜索中とのこと……。なんですか、これ?」
「お狗さまを呼んだとき、あいつが何て言ってたか覚えてるか?」
 言われて、思い出したくもないことを香苗は思い出させられた。
 ……一人死ぬ。……二人死ぬ。……いや、三人死ぬ。
 あのとき確かに小夜子は、いや、彼女の体を使って、あの場にいたものはそういった。
「いやいや……。まっさかあ……」
 その夜の出来事を、無理やり頭からかき消すように、香苗はひきつった笑顔で言った。
「……テレビだと、死亡推定時刻は二十日の夜十一時ごろだろうって言ってた。あたしらがお狗さまを呼んで、時計が止まった時間を、お前は覚えてるか?」
「たまたまじゃないんですか?」
「それからな。この記事をよく読んでみろ。大型動物に殺害された可能性、って書いてるのに、そのすぐ後に、夫を殺人の容疑で捜索中って書いてるだろ? てことは、この男が家族を食ったってことなんじゃないのか?」
 不意に、香苗の脳裏に嫌な映像が再生された。暗いアパートの一室で、人の体を食いちぎる男の姿を想像してしまったのである。
「……ねえ、柳瀬さん。なにが言いたいんですか?」
「アタシもね。考えすぎだって思ってる。自分でも何を言ってるのかよく分からないぐらいさ……。だけど、全く無関係だっていう風にも思えないんだ……」
 ごくり、と二人は騒がしい教室の中でも聞こえるほどの音で、つばを飲み込んだ。いや、二人には、周りの声など聞こえてはいなかった。完全な無音の世界に入っていたのである。
 そして、じわりと気持ちの悪い汗が、頬を伝った。
「おまたせー! お昼たーべよ!」
 緊張していた空気を、小夜子がものの見事に破壊してのけた。
「新聞? なに読んでるの?」
「ああ。いやほら、またあの建設中の大型デパート、工事が延期になったんだってよ」
 とっさに、夕美は別の記事を見せた。それを見た香苗は、夕美が今回のことを小夜子には話す気がないのだな、と気がついた。そして、彼女もまた、口をつむぐことにした。特に理由はないのであるが、ただ、そうしなければならないと感じたのである。
「ええ? またあ? あそこ、もう三年もあのままじゃない。なんだかわたしたちが高校を卒業するまでは絶対に完成しないように思えてきた」
「だな。それより飯だ飯。おい、アサムラ。あんたはどうする?」
「え? 私ですか?」
 唐突に話を振られ、香苗は一瞬、どきりとした。それからややあって、
「じゃあ、せっかくですし、ご一緒させてもらいます。ちょっとお弁当とってきますね」
 一度、小夜子と夕美のいるクラスから出たのであった。





先週、こちらでアップロードするのをすっかり忘れていた
と言うことで、学校怪談編の最後です

次の都市伝説編は
実はまだ改稿が終わっていないという
色々と設定を練り直して書き直したいストーリーと
練り直したからこそ書き足したいストーリーと
それとは別で単に三人の話を増やしたいので
絶賛執筆中

オリジナルと比べると、ここからは大幅に変わる予定
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