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赤毛の姫君 ~その参 六賢老

あらすじ

神速の剣士に続き、豪腕の剣士までも殺されたリンド姫一行は、宿敵アルフレッドを討つべくハイリットを目指す。
一方、アルフレッドの配下である魔法使い集団『六賢老』は、それぞれ別の思惑を持っていた。
その参 六賢老
 
 エルヴィア国の首都ハイリットには、大きな城がある。エルヴィアの若き国王、アルフレッド王の居城、ハイリット城だ。
 ハイリット城は、要塞のような外観のわりに、内装はずいぶんときらびやかで美しい城である。これは、先王が美術に中々うるさかったためである。とはいえ、ひとつの美術館としても機能しそうなこの城の中でも、地下室だけは対照的に美とは無縁の空間となっていた。
 地下室と言っても、食糧貯蔵庫や武器庫、牢獄や拷問部屋のことではない。もちろんこれらの部屋に装飾が施されているわけではないのであるが、とりわけ、六賢老に与えた地下室が他とは比べられないほどの異質な空間となっているのだ。
 その地下室への階段を、アルフレッド王は従者を連れず、一人で降りていた。
 重厚で頑丈そうな扉を、手元の鍵を使って開き、奥へと進んでいくと、なにやら人間のものとも、獣のものとも思えるような声がわずかに聞こえてくる。
 長い階段を下りていくと、それが女の喘ぎ声であることに、誰しも気づくであろう。
 と、同時に、降りるにつれて鼻を刺激する異様な臭いが強くなってくる。
 最下層まで来ると、日の差しこまない地下は昼間だというのに明かりが必要で、そこら中に松明がかけられていた。
 この部屋に入ると、まず目に入るのは鉄格子とその中にいる人間であろう。心身ともに疲弊しきっている女達の裸体が、ゆらゆらと揺れる松明の明かりによって照らされ、なんとも艶めかしい姿を晒している。その女達からはまるで生気を感じない。アルフレッドが部屋に入ったというのに、全く見向きもしないのである。やつれ、疲れ果て、生きる屍のようにも思えるが、どの女もずいぶんと美しい顔をしている。
 まるで商品を並べているかのような牢の奥には、地下室のわりにずいぶんと広い空間がある。そこには拷問道具にも似た、大小さまざまな道具が散らばっており、壁際には手枷をはめられた女が数人いる。中央の床には巨大な魔方陣が描かれており、何か魔法の研究をしているようにも思えるが、少なくとも女達は魔法陣とは全く無関係であろう。
「おお! これはこれはアルフレッド様! 度々このような場所にお呼びして申し訳ありません」
 と、最も近くにいた六賢老の一人であるグラフが、乱暴に女を放ると、アルフレッドの下にいそいそと駆け寄り、ひざまずいた。それに続いて、スルトとハルスがアルフレッドの前にひざまずいた。
 この血過失には、暖炉どころか暖房器具が一切ないのであるが、女達の汗や体液、体温のせいか、異様なまでに蒸し暑かった。もっとも、この男が汗まみれであるのは室温のせいではないだろう。
「いや、いい。お前達を俺の部屋に呼べば、重臣達が黙っていないのだから、俺がここに来るほかない」
 今は亡き先王の頃から、王を補佐する重臣たちは六賢老を忌み嫌っていた。もともとこの国では魔法に対する印象が悪く、魔法使いは卑しく、薄汚く、とてもではないが王族や貴族の近くにあってはならないという風潮があった。しかし、先王はそうした風潮の中で、重臣たちには知られぬように、こうして魔法使いのみで編成された少数先鋭の部隊である六賢老を持っていたのである。
 この六賢老たちの存在は、アルフレッドですら知りえなかった。彼の父親である先王が没した後、六賢老たちからアルフレッドの前に姿を現したのだ。聞くと、先王の遺言で、もしも自分が死んだら息子の手足となるように言われていたのだという。
 六賢老たちのために作られたこの地下室や、知らぬ間に連れてこられた女達がどういう扱いを受けているか、そして何よりも六賢老たちのその醜悪な姿もあり、始めのうちはアルフレッドもこの魔法使い達を薄気味の悪い化け物を見るような目で見ていた。しかし、一人、また一人とルーク四剣士を始末したという報告があるたびに、アルフレッドはこの魔法使い達を信用するようになっていた。
「さて、『千里眼のグレア』から聞いたのだが、ルーク四剣士の一人をまた始末したそうだな」
「ははっ! このハルスめが、ルーク四剣士が一人、『豪腕の剣士』を始末いたしました!」
「うむ。これで残るは『知略の剣士』のみだな。……時にグラフよ。リンド姫の護衛の中に、元ルーク四剣士が紛れ込んでいたそうだな」
 と、アルフレッドはその美しい顔にかかる金色の長い前髪をかきあげながら言った。
「ほっ。『策士の剣士』でございます。不覚ながら取り逃がしてしまいましたが、次は必ずや仕留めてご覧に入れます」
「うむ。……グレアと、それからやつらの中に潜入している『変化のフルズ』の話では、『知略の剣士』は北にいるという元ルーク四剣士の一人を味方にしに行き、リンド姫たちはここ、ハイリットに向かっているという」
「……」
「北に向かった剣士は、グラフ、お前が始末しろ」
「ははっ!」
「残りはここに残り、姫たちがハイリットに来たときに始末しろ」
「ははっ!」
「繰り返す必要もないとは思うが、念のために言っておく。リンド姫は無傷でここまで連れてこい。いいな?」
「承知いたしました!」
 と、六賢老たちは揃ってアルフレッドにこたえた。
 アルフレッドは、ふとこの地下室の中を見回した。
「そういえば、グレアはこの部屋には来ることができないからいいとして、『賢老のジン』の姿を見かけないが?」
「はっ! あやつめはこの部屋を毛嫌いしておりまして、ここには一度も来たことがありませぬゆえ、ここには姿をあらわさぬかと」
「……まあよい。ではリンド姫の件、頼んだぞ」
 そう言って、アルフレッドは地下室を後にした。階段を上がりきり、六賢老たちの地下室への鍵をかけると、アルフレッドは深いため息をついた。いくら信用しつつあるとはいえ、あの部屋はいささか目にも鼻にも毒であると思ったのだ。
「何をしていたのかしら」
 と、アルフレッドは背後からの声に驚き、思わず飛び上がりそうになった。
「な! ……なんだスリアか、驚かすな」
 そこには、アルフレッドの妻、王妃スリアが不機嫌そうな顔をしながら立っていた。さすがに正妻に、側室を迎え入れようとしていることがばれるのはまずいわけであり、アルフレッドは、一度さあっと顔を青ざめた。だが、すぐに心を落ち着け、平常を装った。
「何だとは何よ」
「いや、別に深い意味があっていったわけではない。それよりも、お前、こんなところで何をしているんだ」
「そういうあなたこそこんなところに何の用があるというの? ここにはあの忌々しい魔法使い達しかいないはずよ」
「用ってほどのことがあってきたわけではない。いや、なんにせよだ。俺が何をしていようと国王たる俺の勝手だろう」
「……」
 すると、スリアはしかめ面をしたまま、無言でその場を去った。
 重臣たちはもちろんのこと、王妃スリアも魔法使いの存在を毛嫌いしているのだから、起こるのも無理はない。だが、考えてみると六賢老の地下室に何度も出入りしすぎていると、アルフレッドは反省した。
 
「ふむふむ。……しかし、確かにスルトの言うことも最もだな」
 と、松明の明かりだけが頼りであるこの暗く湿った地下室で、片眼鏡をかけたハルスは、口髭とつながっているあご髭をなでながら、神妙な面持ちで言った。
 その場には、『幻術のハルス』以外に、『強化のスルト』と『重力のグラフ』の二人がおり、三人はそれぞれお気に入りの女を数人はべらせながら、小さな円卓を囲んで真剣な顔で話し合いをしていた。
 円卓の上には、『千里眼のグレア』が、エルヴィアに侵入しているルークの賊たちの顔を念写した紙がばら撒かれている。そのうちの、既に死んだ三人の剣士の顔には大きなばつ印が描かれている。他にも、ルーク王族最後の生き残りであるリンド姫の顔や、その従者達の顔もあるのだが、彼らが注目していたのは一人の女剣士の顔であった。
 長い栗色の髪に、象牙のように美しい肌。きっと眉をひそめた表情が凛々しく、実に美しい女剣士である。
「かっかっかっ! そうだろ? それに顔だけでなく、中々に美しい声を持っているし、何よりもずいぶんと気の強い女だった。俺の強化後の姿を見ても、臆するどころか罵倒しやがったんだ」
 ハルスの言葉を聞いたスルトは、大声で笑い出すと、険しい表情を満面の笑みに変え、まるで新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃいだ。そうして興奮しているスルトの巨体に耐え切れないのか、彼の座っている椅子がぎしぎしと悲鳴を上げている。そもそも、彼の身体の大きさに対して、普通の椅子が小さすぎるのだ。
「ほっ。お主の変化後を見て泣き叫ばん女など聞いたことがないの」
 と、グラフが女剣士の顔が写された紙を覗き込むように前かがみになったとき、彼が座っている椅子も軋んだ。筋肉の塊のようなスルトとは違い、グラフは贅肉の塊である。
「かっかっかっ! おそらく、どこぞの貴族の出なのだろうな。気位の高い口調も相まって、どんな声でさえずるのか、どんな顔で涙を流すのか、想像するだけで涎が出てしまう」
「いやいや、それにしてもいい女だな。アルフレッド様のご趣味が悪いとは言わぬが、私も冴えない顔つきのリンド姫よりも、この女のほうがいいと思うぞ」
 ハルスはそういいながら片眼鏡の位置を直し、食い入るように紙を見た。
「ほっ。しかし、スルト。お主が言うようにこの女をここに連れてきたとして、果たしてアルフレッド様が許されると思うか? ルーク四剣士を一人残らず始末せよと申されたのも、やつらの力を恐れてのことだ。到底、許されるとは思えぬがの」
 グラフは長い鯰髭を揺らしながら、不安そうにスルトの顔を見た。
「だから、そこは殺したことにしてこっそりと連れ帰ればいいだろ。例えばハルスの幻術を使うとか」
「待て待て、君はアルフレッド様がなんと申されたか忘れたか? 王はグラフに女剣士を始末しろと申されたのだぞ」
「ぐうっ」
 と、スルトが苦い顔をした。
「ほっ。それに、グレアが常に連中の動向を監視しておるのだ。黙って連れ帰ったとしてもすぐにばれると思うぞ」
「ぐうう」
 スルトはさらに唸り声を上げた。そのスルトを見ていたハルスがふと笑みをこぼした。
「まあまあ、私としてもこの女は欲しいわけだから、ここは協力してやろう」
「本当か?」
「そうだな。グラフ、君の魔法で女剣士の動きを封じろ。拉致はジンにやらせる。それとグレアは私が言いくるめておくから安心しろ。この手でどうだ?」
「おお! さすがハルスだ!」
「ただし、女剣士は三人のものとする」
「それはもちろんだ! ここ最近こいつらにも飽きてきたところだし、楽しみだな! かーかっかっ!」
 薄暗い地下室にスルトの大きな笑い声が響いた。いや、笑っているのは彼だけではない。グラフとハルスの二人も、薄気味の悪い笑みを浮かべていた。
 
 ハイリット城の中には、膨大な量の文献を収集している図書施設がある。利用するのはこの城に仕えている学者たちなのだが、その中に、二人の魔法使いがいた。
 一人は、両の眼球と全ての歯がない、醜悪な老婆である、『千里眼のグレア』である。彼女の、千里先すらも見る魔法は学者達から重宝されていた。例えば動植物、例えば鉱物や化石、例えば彼らが必要としている知識を持っている専門家など、グレアに頼めばいとも容易く見つけ出してくれるのだ。
 そういうこともあり、他では腫れ物のように扱われる魔法使い達であるが、グレアはこの図書施設で、学者達からのみ、人並みの扱いを受けていた。
 もう一人は、『賢老のジン』という魔法使いである。この魔法使いは、ずいぶんと長い髪に、ふさふさとした長い口髭と長いあご髭、それら全てを真っ白に染めている老人である。とはいえ、年齢を感じさせないほどに姿勢がよく、しわだらけだが渋く、どこか威厳のある面持ちであった。
 この老人は、この城に仕える学者以上に頭の働きがよく、この図書施設にある文献を全て記録しているのではないかというほどに博識であった。そうしたこともあり、学者達だけでなく、一部の重臣たちからも一目を置かれるほどの男である。
「……ふむ。女剣士は一人、ゼズスへと向かったか。中々、大胆な行動をするな」
「ほっほっほっ。とはいえ、これで残っているのは侍女が一人と、老人剣士が一人。リンド姫は丸裸も同然でございますな」
 広い図書施設の中でも、この二人の魔法使いのみが使用する場所があった。機密文書を収めている部屋の隣にある、魔法に関する文献を収めている小部屋である。
 そこで、グレアは小瓶の中に入れていた液体状の鏡を出し、エルヴィアに進入しているリンド姫たちの動向を監視していた。
「それでは、『変化のフルズ』に二人を始末させましょうかの」
「いや、待て。ここまで来ているということは、姫君にも相応の覚悟があるはずだ。最悪の場合、自害されるなんてこともありうる。ここは一度ハイリットに入れ、ハルスの幻術かグラフの魔法で抵抗できないようにしてから国王陛下に渡したほうが良かろう」
「ほっほっほっ。相変わらず、慎重でございますな」
「陛下が無傷で捕らえよとのことなのだから、慎重すぎるぐらいが丁度良かろう。まったく、まさか陛下がルークの姫君を側室にしたいと言い出すとはな。……いやそれよりも気になるのは女剣士が捜している元ルークの剣士のほうだ」
「確か、ジューゾウという男にございましたな」
「調べても正体が掴めない男だ。わざわざエルヴィアに進入し、さらに剣士と言えど女一人で探しに行くほどの手練という情報も手に入らない」
 と、ジンは眉をひそめながら、腕を組み、ううむと唸り声を上げた。
「しかし、我ら六賢老の相手ではございますまい」
「いや、他の四剣士、それに元『策士の剣士』はそうだと言い切れる。一人ひとりの経歴、戦歴、戦い方に性格を調べ上げた上で、それぞれにとっての天敵となりうる魔法使いを送ったのだからな」
 そうした情報は、もちろん千里眼を使ったグレアが集めたのである。
「だが、このジューゾウという男の情報はあまりにも少ない。分かっているのは、元剣士だということ、確かにルークの先王ガロンに仕えていたということ、そして今は傭兵だということだけだ。……まるで幽霊のような男だな」
「ほっほっほっ。妙なことをおっしゃいます。この男は確かに存在しておりますし、ワシの千里眼で居場所も分かっております」
「……」
 ジンは、グレアが操る液体状の鏡には、無精ひげを生やし、長い黒髪を総髪に束ねた、妙な服を着た男が映し出されている。
 と、ジンは突然、振り返って部屋の外に出た。
「……? どうされました?」
 きょろきょろと部屋の外を見回した後、ジンは部屋に戻った。
「……ふむ。あの女の動きにも注意したほうがよさそうだな」
 ぼそりとジンは呟いき、長い髭がわずかに揺れた。
「一体何のことでしょうか」
「いや何、こちらの話だ」
 にやりと笑みをこぼしながら、ジンはこのとき、面白くなってきた、などと不謹慎なことを考えていた。
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