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赤毛の姫君 ~その七 首都ハイリット

あらすじ

アルフレッドの放った刺客、六賢老のグラフを返り討ちにした重蔵は、女剣士エレナと共にハイリットを目指した。
一方、先にハイリットに到着したリンド姫たちは、思わぬ来客と対峙していた。

※注意
ここから先の原稿を紛失しているので、続きがありません
続きはいつ書くか未定です
その七 首都ハイリット
 
 エルヴィアの首都、ハイリットには、大きな城がある。エルヴィアの王族が住まう、この国の中枢である。
 その城の一室には、若き王アルフレッドと魔法使いジンの二人がいた。もちろん、二人が密談を交わしている事を、重臣たちは知らない。
「そうか、グラフが死んだか」
 と、アルフレッドは言った。部屋の中でちらちらと踊る蝋燭の炎が照らしているのは、何もこの落ち着いていて重厚な雰囲気のある書斎だけではなかった。アルフレッドが金色に煌めく長い前髪をかきあげた時、その白く透き通った肌がろうそくの明かりを受けているのだ。
「さすがはルークの剣士だな。一筋縄ではいかないか」
「リンド姫ら一行はその後、ハイリット内に侵入。合流するのも時間の問題かと思われます」
「そんなことは分かっている。分かっているのだが……。しかし、まさか俺の首を狙いに来るとは」
「……」
「やはり一度、重臣たちにこのことを話すべきであったか?」
「……」
「いや、それはだめだ。ここまで入られてしまっては、今さら言い出せない。それに、この事がスリアにばれれば、あの女、何をしだすか分からないし……」
 アルフレッドは椅子から立ち上がり、いらついているのか部屋の中をぐるぐると歩き始め、狐にでもとりつかれたかのように、ぶつぶつと独り言を呟いた。
 そのアルフレッドを、ジンはただ黙って見ていた。
 ジンはふと、それならば側室に向かい入れた後はどうするのだろうか、と考えたのだが、口には出さなかった。自分の欲が招いた事態に慌てふためいているとはいえ、それでも主君である以上、これ以上口を挟めないためである。何よりも魔法使いの身分というものは低く、国王と会話することなど本来は許されていないのだ。
「そうだ。ジン、お前の魔法ならリンド姫だけをここに連れてこれるのではないか? 姫さえこちらにくれば、後は首都内の兵にでも任せてやつらを始末できるだろ」
「それはお断りいたしますな」
「何?」
 アルフレッドは、呆気に取られつつも老魔法使いを睨んだ。対して、きっぱりと言い切ったジンは、凛とした力強い眼をして、話を続けた。
「陛下はルークの剣士を全員、ことごとく始末すれば、今後、魔法使い部隊の導入を本格的にすると申されました」
「ああ、確かに言った。既にルークの剣士を三人も亡き者にしたのだのだから、そのことについては、俺の権限を持ってして実現しよう。しかし、最も重要なのはリンド姫を手に入れることだ」
「いえ、この戦いは最早、単にリンド姫を手に入れるためのものにございません」
「どういうことだ」
「ルークの剣士は魔法使いグラフを殺しただけではなく、その術を破ったからにございます」
 そう言われて、アルフレッドはジンが何を言いたいのかが分からなくなり、困惑した。しかし、明らかに理解できていないという顔をしているアルフレッドに構わず、ジンは話を続けた。
「魔法使いたるもの、術の破られるということはあってはならないこと。グラフを殺した剣士は、単にグラフを殺しただけでなく、完全にグラフの術を看破していたのです。それだけでも魔法使いとしての誇りを踏みにじられたようなものなのですが、のみならず、やつはルークの剣士として魔法使いをことごとく打ち破ってみせると豪語したのでございます。これは我ら魔法使いに対する挑戦であり、この戦いは魔法使いと剣士、双方の誇りを賭けたものなのです」
「だが、リンド姫はどうするつもりだ」
「リンド姫は必ずや、我らの手で陛下のもとへ届けましょう。ただし、それはルークの剣士を一人残らず始末し、剣士に完全なる敗北を与えた後にございます。魔法使い部隊の導入も、我らが勝利した後にしていただきたい」
 アルフレッドは眉をひそめ、険しい表情をしながらしばらく考え込んだが、結果として、危険因子であるルークの剣士の暗殺、リンド姫の入手、そして重臣たちやスリアに事が露見しない、という三つの要素が達成できるのであれば何も問題はないだろうという結論に至った。
 
 ハイリットは、エルヴィアの首都と言うだけあって、他の街よりも遥かに兵士の数が多く、実に厳粛で張り詰めた空気に包まれていた。尤も、それは戦は終わったと言うのに、どこに行っても甲冑や軽鎧を着込み、武器を持った者達が歩いているからである。がしゃり、がしゃりと金属がぶつかり合う音が聞こえ、しかし、ここで生活している兵士達は、まるでそれが当たり前のように武装をしている。
 特に誰かが武装をしているように命令をしているわけではなく、兵士達は自発的に鎧を着ているのだ。元は、いつでも戦に出られるようにと、誰かが始めたことなのだが、今では国の風習のひとつとして、兵士が武装することは当たり前となっていた。
 その中でも、鎧を着ず、甲冑を身につけず、しかし武器だけを携えている男達がいる。兵士ではなく、傭兵ではなく、かといって盗賊と言うわけでもない。この国の貧困層から出てきた者や、素行の悪さなどから軍から追い出された者などの、いわゆるならず者達である。
「五十だそう」
 そのならず者達に話しかけたのは、国王の重臣の一人であるヤルドであった。重厚かつ大きな鎧を身につけた、顔中傷だらけの屈強そうな男である。
 悪鬼のような気迫を放ちながら、低く、野太い声で話しかけられたときは、さすがのならず者達もたじろいだのだが、目の前に出された金の量に対し、彼らは思わず再び息を呑んだ。
「五十もですかい……。それも前金で……」
 出された金額もさることながら、ヤルドが持ちかけた依頼内容に彼らは肝を抜かれた。
「先ほど俺が言った、ハイリットに来ている女四人と老人一人、一人残らず殺すことができれば、さらにもう五十出してやる」
「……」
「どうした、不服か?」
 ヤルドに睨まれたならず者達は、しかし彼の強烈な眼力に恐れたのではなく、この依頼の裏に何かあるように思えて狼狽した。
「これだけの金を、それもヤルド様のようなお方が出すってこたあ、何かとんでもねえ事にでも巻き込まれるんじゃあねえですかい?」
「そうだな、金は惜しいが、何よりも命が惜しい」
 ならず者達は互いに耳打ちをし、ヤルドの話に警戒していた。
「……分かった。なら一人五十だ」
「へえ?」
 ヤルドの言葉に、ならず者の一人は思わず阿呆のような奇声を出した。
「一人殺すごとに五十だそう」
「……」
 ごくり、とその場にいた誰もが唾を飲んだ。貧民層からすれば、破格の誘いである。
「よ、よし。それで手を打とうじゃないか」
 ならず者集団の代表がそう答えたのが、半時ほど前のことである。
 
 ならず者達は、標的が入ったぼろ宿を囲むように、路地や道路で様子を窺っていた。
「お頭……、やっぱり連中はただ者じゃねえんじゃねえですか? だからあれだけの金を出したんじゃあねえですか?」
 自信なさげに、下っ端の一人が言った。
「黙れ。相手はたかだか女とじじいだ。それに前金で五十も貰ってんだ。いざとなりゃあ逃げりゃいい」
 ならず者達を統率する、無精ひげに禿げ上がった頭の男は、頬の刺青の上を滑り落ちた汗を拭いた。
「行くぞ、お前ら」
 そういうと、刺青の男は他の者達にも合図を送った。
 入り口を蹴破り、歩くだけでぎしぎしと傷んだ木の板が音を立てるほど老朽化の進んだ宿に押しかけたならず者達は、そこにいる者達を見て少々安心した。
 か弱そうな女が三人と、剣を腰に差しているとはいえ、強そうには見えない初老の男が一人。
 突然の訪問客に驚き、男は慌てて腰の剣を抜いて女達の前に出て、長い黒髪の女は懐からナイフのように短い剣を取り出し、残りの女二人はさらにその後ろで恐怖に顔を引きつらせている。
「聞いた話よりも女が一人足りないが、どうやら心配なさそうだな」
 刺青の男がそういうと、他の者達も一度、安堵の息を漏らした。と、今度は女達を舐めるように見ると、いやらしい表情でにやにやと笑い始めた。
「お頭。あの女たち、かなりの上玉ですぜ」
「ああ、分かってるさ。ヤルド様は殺せと言ったが、別に俺達の物にしてもよかろう」
 刺青の男は言うと、腰の剣を抜き、剣先を初老の男に向けた。
「じじいを殺せ! 女は連れ帰るぞ!」
 と、刺青の男が号令をかけた。
 初老の男と短剣を持った黒髪の女が奮闘するも、さすがに多勢に無勢である。出入り口は全てならず者達がふさいでいるため逃げ場がないのだが、武器を持っていない赤毛の女と栗毛の女は顔を絶望の色に染めながらも、それでも何とか逃げ出そうとしていた。
「女を一人捕まえましたぜ、お頭!」
 と、栗毛の女を当身で気絶させた下っ端の一人が叫んだ。
「でかした! おいじじい! 女の命が惜しかったら武器を捨てな!」
 刺青の男は叫んだが、初老の男は一向に武器を下ろす気配がなかった。それどころか、黒髪の女と共に、赤毛の女の前に立ちふさがり、徹底的に対抗する気でいるのだ。
「ちっ、めんどうだ。お前ら! さっさとじじいを殺して女を連れ帰るぞ!」
「それは困るな」
 背後から聞こえた聴きなれない声に驚き、刺青の男は、いや、ならず者達全員が振り返った。
 そこにはローブを羽織った、灰色の長い髪、長い髭の老人が、杖を片手に立っていた。
「誰だお前! いつからそこに――」
 言い終わる前に、ならず者達は一人残らず姿を消した。
 先ほどまであれほど騒がしかった宿内は、耳鳴りを起こしてしまいそうになるほどに、すっかり静かになった。
 見ると、ならず者達がいた場所に、ぽっかりと真っ黒な穴が開いていた。どこにつながっているとも分からない、綺麗な円の穴である。と、その穴が全て、すうと小さくなっていき、遂には消えてしまった。
 
 最悪の場所、最悪の時に、下町のごろつき共に襲われたリンド姫たちは、しかし思わぬ者の助けによって、その難を逃れた。
「手助け感謝いたす! しかしその方、何者か!」
 依然、剣を構えているロッジが、不可解な力を使う老人をぎらりと睨みつつ、宿の外に聞こえるのではないだろうかと言うほどの声を出した。
「まあ、そう警戒するでない」
 ずいぶんと長く、ぼさぼさの髭をいじりながら、ローブの老人は言った。
「何を言うか! 貴様、エルヴィアの魔法使いであろう!」
「それはそうだが、儂はなにもお主らを殺しに来たわけではない。頼みたいことがあってお主らを助けたのだ」
「おのれ! 剣士を三人も殺しておいて何をぬかすか!」
 喚き散らすだけで話を聞かないロッジでは、進む話も進まないと判断したのか、リンド姫は気絶しているレインをシエルに任せ、ロッジの前に一歩出た。
「話を聞きましょう」
「その赤い髪。ルークの姫君、リンド殿にございますな?」
「いかにも」
 しなやかに、静やかに、それでいて凛然たる強い眼をしてリンド姫は答えた。その動き一つ一つに気品があり、威厳がある風である。
「エルヴィアの魔法使い、六賢老が一人、『賢老のジン』と申します」
 そういうと、ジンはその場にひざまずき、頭を垂れた。
「エルヴィアの魔法使いよ。面を上げなさい」
 剣を収めるようにロッジに命令をし、リンド姫は透き通るような声でジンに言った。
「頼みごとがあると言いましたね」
「はっ。陛下のことで、ひとつ頼みたいことが……」
「アルフレッドのことですか?」
「はっ。実は……、儂はリンド殿にこの国を治めて欲しいと考えておるのでございます」
 面を上げることなく、ジンは落ち着き払った口調でそういった。
 さすがにこれにはロッジのみならず、リンド姫も鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。
「どういうことですか?」
「実を申しますと、陛下は大変臆病な性格にございまして、到底、国を治めるものとしてふさわしいとは思えないのでございます」
「臆病……? しかし、『同盟』の手助けを借りずに我らルークと戦うと宣言したのは、他でもない、アルフレッドではないですか」
「それは先の戦が勝ち戦であることを理解していたからにございます。エルヴィアの兵力を持ってすれば、いかに強力な剣士がルークにいようと、圧倒的物量差の前には為す術もないと判断したからにございます」
 それを聞いて、ルークを侮辱するきか、と剣を再び抜こうとしたロッジを、リンドは制した。
「それだけにございません。陛下はリンド殿を側室に迎えたいとお考えになられておいでなのですが、ルークの姫君を側室にすることによる重臣達からの非難、何よりも妃様のお怒りを何よりも恐れておいでです。あのお方は何かと妃様に頭の上がらないお方にございまして、儂はどうしても先王と比べてしまうのです」
「……はあ」
「聞いた話では内政もひどい有様のようでして、とにかく他国との争いを必要以上に起こさぬよう、弱腰の外交を続けておられるとの事。だというのに、熱心に力を入れているのはリンド殿を側室にするための策略にございます」
 そこで、ジンは初めて顔を上げた。
「内政を重臣達が好きなように行っていないということが、今はせめてもの救い。されど、このままでは先王が気づきあげたエルヴィアという国が危ないのです」
「しかし、なぜ私なのですか?」
「普通ならば、ガロン王が討たれたとき、逃げるか身を隠すものでございましょうが、リンド殿はエルヴィアに入られた。剣士を三人殺されながらも、ここ、首都ハイリットに入られた。女の身でありながらも国のために戦い、そして立ち向かい続けられておいでです。エルヴィアの王にはそうした人が必要なのです」
 リンド姫とロッジは互いに顔を見合わせた。言葉は交わしていないが、どちらもが、どうしたものか、と判断に苦しんだのだ。
「それで、私にどうしろと?」
「まずは、エルヴィアに下り、陛下の側室になっていただきたい」
「……」
 ロッジはジンを鬼のような形相で睨みつけた。ロッジだけでなく、リンド姫も不快そうな顔をしてジンを見つめたのだが、ジンは構わず話を続けた。
「今はまだ、陛下と妃様の間にご子息はおられません。そこで、先にリンド殿に陛下との子を身籠ってもらいます。その後、陛下に『同盟』の原則を破らせ、投獄、あるいは処刑に追い込みます」
「上手くいくと思っているのですか?」
「はっ。必ずや成功いたします」
 そういうだけあって、何か策があるのだろう、とリンド姫は感じた。
「……考えさせてください」
 リンド姫が俯きながらそういうと、ジンはゆっくりと立ち上がり、振り返って杖で空に円を描いた。すると、ジンの正面に、先の見えない、石炭袋のような大きな穴が現れた。
「城への入り口を、しばらく開けておきますので、強硬手段に出るにせよ、しかと考えた上で参られませ」
 と、ジンが大穴に向かって歩き出した。
「言い忘れておりましたが、儂以外の六賢老にこの話をしても無駄でございます。それと、六賢老以外にもリンド殿のお命を狙っているものがおりますので、気をつけられませ」
 そういうと、ジンは大穴の中に消えていった。
 
 兵士たちの行き交うこの街に、ずいぶんと場違いな格好をした二人が歩いていた。
 一人は栗色の長い髪と、整った顔立ちが美しい、エレナという女剣士である。剣先のように鋭く、そして凛としているその美貌には、どこか浮世離れしているようにさえ思える風格があり、近寄りがたくある。
 もう一人は、エレナの隣を並んで歩いている重蔵という者なのであるが、この男も中々に変わった男であった。羽織っている服が実に妙で、薄い寝巻きのような服に、短い胴着を上に着ているという格好なのだ。その姿は、およそ兵士から程遠いものであるどころか、この国の文化観から言えば、まさに寝巻き姿で外を出歩いているようであるため、誰もが通りすがりに不思議なものを見るような目で見ていた。
「……重蔵殿。やはり何か着るものを手に入れたほうがよいのではなかろうか?」
 彼女自身、今さら言うのも遅いと思ってはいるのだが、さすがに注目を集めすぎていると心配になっていた。
「なあに、服装などどうとでもなる」
「いや、どうにもなってないから言っている。どれだけ人の目を集めていると思っているのだ」
「そんなことよりも、他の連中のところにはまだ着かないのか?」
 堂々と歩いていれば問題ない、と重蔵は言ったが、敵地にいると言うことを考えると、エレナは気が気でないのだ。しかし、そんなエレナの心境を知ってか知らずか、重蔵は平然としていた。
 エレナはふと、足元を見下ろした。彼女の足元には二本の影が伸びている。ひとつは紛れもなく彼女自身の影である。しかし、もうひとつの影は太陽の位置に関係なく、全く違う方向に向かって伸びていた。
「シエルが私に着けた影は、本来の主の下に戻ろうと、主のいる方を向いている。影の向いている方角に向かって進めば、必ず皆と合流できる。それと、影の色が濃くなるほど、影の持ち主に近づいていると言うことだ。この濃さならおそらくすぐ近くまで来ていることであろう」
 と、エレナは重蔵の顔を見ず、ため息混じりに説明した。
「はあ、ずいぶんと便利な影だな」
「……ひとつ言わせて貰うと、この説明をするのはこれで三度目になるのだが」
「そういえばそうだったな。悪い悪い、なにぶん、話を聞いたときは酒が入っていたからあまり覚えていなくてな」
「あれだけ強い酒をがばがばと飲むからだ。まったく、酒の入っている状態で襲われたらどうするつもりか」
 ぼりぼりとあごを掻き、まるで反省しているように見えない重蔵を睨みながら、エレナは半ばあきれかけていた。確かにエルヴィアの魔法使いを倒しはしたが、本当にこの男の助けを借りてよかったのだろうかと、一抹の不安がエレナの脳裏によぎったのだ。
「それなら問題ない。武士として、いついかなるときにでも戦えるように、日頃から訓練している」
 重蔵はにかっと笑いながら自信満々にそういった。
「まさかとは思うが、単に酔っているときのほうが多いと言うことなのではないだろうな」
 しかし、エレナにそういわれると、重蔵は顔を引きつらせながら顔を背けた。
「そんなことはない」
「おい、人の目を見て話さぬか」
「それよりも大変なことになった」
「大変なこと?」
 と、重蔵は唐突に神妙な面持ちで言った。今までのどこか気の抜けた顔とは違い、力強い迫力があり、何事かとエレナは辺りに気を配りつつも重蔵の顔を見た。
「……酔いがさめた」
 重蔵は依然、真剣そのものの表情でいる。
「……ほう。丁度よいではないか。今なら万全の状態で戦えるわけだ」
「馬鹿いえ。酒が入っていないのに刀が握れるか」
「何とんでもないことを口走っているのだ!」
 と、エレナはつい声を張り上げてしまった。どうもこの男といると調子が狂うのだ。それもこれも、昨晩、重蔵が依頼の報酬にエレナを要求したことにあるからだ、と思いつつも、エレナは重蔵の言葉に動揺した自分自身にも怒りを覚えていた。彼女のきつい態度や不機嫌そうなしかめ面にはそういう彼女の心理も含まれていた。
 そうこうしていると、シエルの影も色が大分濃くなってきていた。もうずいぶんと近くまで来ているはずだと考えると、つい今まで以上に先を急いでしまう。
 だからか、少々焦っていた彼女は、なぜ重蔵に腕を掴まれたのか、始めは理解できず、文句を言おうとしたとき初めて異変に気づいたのだ。
 前方から四人、後方からは五人、鎧を身につけた男達が行く手を、いやそれどころか逃げ道すら塞いだ。
 見ると、その男達全員の胸に、エルヴィアの国章がある。
「ジュウゾウ殿、エルヴィアの兵だ」
「見りゃわかる」
 男達は、エレナと重蔵を取り囲み、距離を保った状態で立ち止まった。こうして並んでいる姿を見ると、中々に威圧感がある、とエレナは腰に差した剣に手を添えた。
「ルークの剣士だな」
 兵士達の中でも、最も大きく重厚な鎧を着ている、顔中に傷跡がついているその男は、猛獣の唸り声のように低い声を出した。
「エルヴィア第七兵団団長、ヤルドだ。……国のため、貴様らにはここで死んでもらう」
 すらりと腰の剣をヤルドが抜くと、続けて他の兵士達も剣を抜いた。すかさずエレナも剣を抜き、構えた。だが、重蔵だけは刀の柄に手をかけるどころか、袂に手を入れて腕を組んだ。
「悪い、人違いだ。見ての通り俺はルークの剣士じゃない。ただの旅行者だ」
 いけしゃあしゃあと重蔵は言ってのけたが、ヤルドは顔色一つ変えず、部下達に合図を送り、兵士達は一歩、二歩、ゆっくりと重蔵に近づいてきた。
「ルークの剣士よ。私は一度、戦場で貴様と剣を交えたことがある」
「……ほう」
 ヤルドは袖をまくり、左腕を見せた。彼の左腕は、ひじから指先まで、金属でできた義手であった。それも、ただの義手ではなく、金属の棒や管、細かい部品から成る、機械仕掛けの義手である。
 兵士たちの行き交うこの街に、ずいぶんと場違いな格好をした二人が歩いていた。
 一人は栗色の長い髪と、整った顔立ちが美しい、エレナという女剣士である。剣先のように鋭く、そして凛としているその美貌には、どこか浮世離れしているようにさえ思える風格があり、近寄りがたくある。
 もう一人は、エレナの隣を並んで歩いている重蔵という者なのであるが、この男も中々に変わった男であった。羽織っている服が実に妙で、薄い寝巻きのような服に、短い胴着を上に着ているという格好なのだ。その姿は、およそ兵士から程遠いものであるどころか、この国の文化観から言えば、まさに寝巻き姿で外を出歩いているようであるため、誰もが通りすがりに不思議なものを見るような目で見ていた。
「……重蔵殿。やはり何か着るものを手に入れたほうがよいのではなかろうか?」
 彼女自身、今さら言うのも遅いと思ってはいるのだが、さすがに注目を集めすぎていると心配になっていた。
「なあに、服装などどうとでもなる」
「いや、どうにもなってないから言っている。どれだけ人の目を集めていると思っているのだ」
「そんなことよりも、他の連中のところにはまだ着かないのか?」
 堂々と歩いていれば問題ない、と重蔵は言ったが、敵地にいると言うことを考えると、エレナは気が気でないのだ。しかし、そんなエレナの心境を知ってか知らずか、重蔵は平然としていた。
 エレナはふと、足元を見下ろした。彼女の足元には二本の影が伸びている。ひとつは紛れもなく彼女自身の影である。しかし、もうひとつの影は太陽の位置に関係なく、全く違う方向に向かって伸びていた。
「シエルが私に着けた影は、本来の主の下に戻ろうと、主のいる方を向いている。影の向いている方角に向かって進めば、必ず皆と合流できる。それと、影の色が濃くなるほど、影の持ち主に近づいていると言うことだ。この濃さならおそらくすぐ近くまで来ていることであろう」
 と、エレナは重蔵の顔を見ず、ため息混じりに説明した。
「はあ、ずいぶんと便利な影だな」
「……ひとつ言わせて貰うと、この説明をするのはこれで三度目になるのだが」
「そういえばそうだったな。悪い悪い、なにぶん、話を聞いたときは酒が入っていたからあまり覚えていなくてな」
「あれだけ強い酒をがばがばと飲むからだ。まったく、酒の入っている状態で襲われたらどうするつもりか」
 ぼりぼりとあごを掻き、まるで反省しているように見えない重蔵を睨みながら、エレナは半ばあきれかけていた。確かにエルヴィアの魔法使いを倒しはしたが、本当にこの男の助けを借りてよかったのだろうかと、一抹の不安がエレナの脳裏によぎったのだ。
「それなら問題ない。武士として、いついかなるときにでも戦えるように、日頃から訓練している」
 重蔵はにかっと笑いながら自信満々にそういった。
「まさかとは思うが、単に酔っているときのほうが多いと言うことなのではないだろうな」
 しかし、エレナにそういわれると、重蔵は顔を引きつらせながら顔を背けた。
「そんなことはない」
「おい、人の目を見て話さぬか」
「それよりも大変なことになった」
「大変なこと?」
 と、重蔵は唐突に神妙な面持ちで言った。今までのどこか気の抜けた顔とは違い、力強い迫力があり、何事かとエレナは辺りに気を配りつつも重蔵の顔を見た。
「……酔いがさめた」
 重蔵は依然、真剣そのものの表情でいる。
「……ほう。丁度よいではないか。今なら万全の状態で戦えるわけだ」
「馬鹿いえ。酒が入っていないのに刀が握れるか」
「何とんでもないことを口走っているのだ!」
 と、エレナはつい声を張り上げてしまった。どうもこの男といると調子が狂うのだ。それもこれも、昨晩、重蔵が依頼の報酬にエレナを要求したことにあるからだ、と思いつつも、エレナは重蔵の言葉に動揺した自分自身にも怒りを覚えていた。彼女のきつい態度や不機嫌そうなしかめ面にはそういう彼女の心理も含まれていた。
 そうこうしていると、シエルの影も色が大分濃くなってきていた。もうずいぶんと近くまで来ているはずだと考えると、つい今まで以上に先を急いでしまう。
 だからか、少々焦っていた彼女は、なぜ重蔵に腕を掴まれたのか、始めは理解できず、文句を言おうとしたとき初めて異変に気づいたのだ。
 前方から四人、後方からは五人、鎧を身につけた男達が行く手を、いやそれどころか逃げ道すら塞いだ。
 見ると、その男達全員の胸に、エルヴィアの国章がある。
「ジュウゾウ殿、エルヴィアの兵だ」
「見りゃわかる」
 男達は、エレナと重蔵を取り囲み、距離を保った状態で立ち止まった。こうして並んでいる姿を見ると、中々に威圧感がある、とエレナは腰に差した剣に手を添えた。
「ルークの剣士だな」
 兵士達の中でも、最も大きく重厚な鎧を着ている、顔中に傷跡がついているその男は、猛獣の唸り声のように低い声を出した。
「エルヴィア第七兵団団長、ヤルドだ。……国のため、貴様らにはここで死んでもらう」
 すらりと腰の剣をヤルドが抜くと、続けて他の兵士達も剣を抜いた。すかさずエレナも剣を抜き、構えた。だが、重蔵だけは刀の柄に手をかけるどころか、袂に手を入れて腕を組んだ。
「悪い、人違いだ。見ての通り俺はルークの剣士じゃない。ただの旅行者だ」
 いけしゃあしゃあと重蔵は言ってのけたが、ヤルドは顔色一つ変えず、部下達に合図を送り、兵士達は一歩、二歩、ゆっくりと重蔵に近づいてきた。
「ルークの剣士よ。私は一度、戦場で貴様と剣を交えたことがある」
 ヤルドは袖をまくり、左腕を見せた。彼の左腕は、ひじから指先まで、金属でできた義手であった。それも、ただの義手ではなく、金属の棒や管、細かい部品から成る、機械仕掛けの義手である。
「……ほう」
「貴様は俺の左腕を斬った。忘れたとは言わせないぞ」
「いや、すまないが覚えていないな」
「なに?」
 ヤルドは面を食らったように声を上ずらせたが、むしろきょとんとした顔をしているのは重蔵のほうであった。それから重蔵は、顎をぼりぼりと掻き、思い出そうとしているのかしばらく唸っていたのだが、
「悪いなあ、やはり思い出せん。強い者とやりあったのなら覚えているはずなんだが」
 と、屈託のない笑顔で言い放った。
 同時に、ヤルドの表情が変わった。明らかに纏っている空気が先ほどまでとは違い、顔には出ていないが、尋常でない闘志と殺意が重蔵に向けられていた。そして、ヤルドはそれ以上言葉を発することなく、ただ機械仕掛けの左腕で小さく合図を送った。
 剣を構えた兵士たちが、一斉に襲い掛かった。
「来い!」
 重蔵が叫んだ。
 重蔵は前方のヤルドたちを相手にせず、振り返って後方の兵士たちへと体を向けた。
 駆ける重蔵に、エレナは続いた。
 しかし、何を考えているのか、重蔵は未だ抜刀していない。だというのに、重蔵はすでに目の前の兵士の間合いに入っている。
 二人の前に立ちはだかった兵士が、怒号を上げながら重蔵の脳天めがけて剣を振り下ろした。
 その刹那、エレナは重蔵の背後から奇妙な光景を目にした。まるで兵士たちの間をすり抜けるように重蔵は進み、三人の兵士が次々とその場に崩れ落ちたのだ。
 エレナだけでなく、その後方のヤルドたちの目にも、同じように映っていた。
 頭上から襲い来る剣を紙一重でかわしつつ、重蔵は兵士の剣が地につくよりも早く、刀を鞘から抜き、まず一人目の兵士の首を斬った。音もなく鞘から刀を抜くその速さもさることながら、そのまま正確に兵士の首筋を斬り上げる技量も、驚くべきものである。
 どっと一人目の兵士の剣が地を斬りつけたとき、その横からは二人目の兵士が襲い掛かろうとしていた。が、二人目の兵士は、たじろいだ。兵士を睨む重蔵の眼光に圧倒されたのだ。その凄まじさたるや、獲物に食らいつく瞬間の猛獣のそれである。とはいえ、兵士の硬直は時間にして一秒あるかないかというものだ。だが、重蔵にとってはそれで充分であった。
 鞘に添えられていた左手を刀に移動させ、渾身の一太刀。重蔵は兵士の隙をついて二人目を袈裟がけに斬り捨てた。
 その光景を見てもなお、臆することなく続いた三人目は、重蔵を一突きしようと足を止めることなく突進した。重蔵は返す刀で三人目の胴めがけて一閃、横なぎを入れた。
 人たちも受けることなく、それどころか返り血すら浴びることなく、重蔵は三人を斬った。
 続いて四人目。振りかぶった腕を斬り落とすと、重蔵は兵士の背後にまわり、刀身を兵士の喉笛にあてがった。
 つう、と兵士の首から微量ながら血が流れたのを見て、ヤルドたちはびたりと動きを止めた。
 いや、立ち止ったのはエレナも同じであった。あまりにも一瞬の出来事に、彼女自身、狼狽していたのだ。
「大丈夫だ。こっちにこい」
 そう言われ、エレナは慌てて重蔵の傍に駆け寄った。
 それから、重苦しい静寂と、寒さのせいだけではない、全身を突き刺すような張りつめた空気がその場を包み込んだ。
 ふと、エレナは周りから強い視線を感じ、周囲に目を向けた。
 ヤルド達だけではない。通りを往来していた兵士たちも一様に武器を構え、エレナたちを睨んでいた。
 状況は、依然として不利なままであった。
「コルト」
 と、突然、ヤルドが言った。
「……はっ」
 重蔵が人質にしている兵士が、震える声で応えた。
「エルヴィアのためだ」
「……はっ!」
 この会話にどういう意味がるのか、それは兵士たちが再び近づき始めたことを考えれば、容易く分かることだろう。それどころか、周囲で様子をうかがっていた兵士たちも剣を構えて駆け出した。
 これに対し、重蔵は捕まえている兵士を突き飛ばし、迎撃の態勢に入った。
 重蔵が刀を構えたのが先か、突如、女の悲鳴にも怪鳥の奇声にも似た、不気味な音が、鳴り響いた。
 耳をつんざくその音を聞き、その場にいる誰もが目を閉じ、耳を塞ぎ、体を強張らせた。
 と、音が止まり、目を開けた時、重蔵とエレナは目の前の光景に衝撃を受け、狼狽した。
 人も、兵士も、立ち並んでいた石造りの家々もその姿を消し、ただ石畳の道が残っていた。いや、道だけが残っているのならまだしも、ふと横を見ると、眼前には地平線の果てまで捌くが広がっている。
 ごお、と強い風が吹きすさんだ。流れる長い栗色の髪を押さえ、エレナは状況を理解することができずに言葉を失っていた。
 まるで、重蔵とエレナの二人を残し、この世のあらゆる人間が消え失せたかと錯覚してしまうような光景である。
「ここは……、一体……?」
 自分の目を疑いながらも、エレナはそう呟いた。
「気をつけろ。人の気配は感じる。見えないだけでまだあいつらはここにいるぞ」
 いいながら、重蔵は刀を納めず、道の端までゆっくりと移動した。
 一体どれだけ高い位置にいるのだろうか。どうやら道だと思っていたのは、巨大な石橋のようであり、橋から砂漠を見下ろすと、橋脚がありえないほど長々と続いていた。
「ここから降りるのは無理か……」
 と、そこで重蔵はあることに気づいた。
「妙だな。なぜ俺たちは斬られない」
「どういうことだ?」
 重蔵の隣に並び、誰もいない道に剣先を向けて構えて警戒しつつ、エレナは重蔵の顔をちらと見た。
「やつらの気配があるって事は、今見えているのは現実ではなく、夢幻。幻術の類をかけられているってことだ。こんな幻術を見せると言うことはあの兵士達の姿をくらまし、俺たちを斬る魂胆のはず。だってのに、一向に斬られそうにない」
 そして、重蔵はちらと背後を見た。
「それと、この道……、というより石橋。後ろには続いていないようだ」
 振り返って道の先を見ると、まるで造りかけのように、歪に、不自然に途切れていた。
「どうもこの幻術をかけた相手は、この道を進んで欲しいようだな」
 重蔵は懐から紙を取り出し、すう、と刀身に付いた血を拭き取ると、その場に紙を捨て、刀を納めた。
「目的は分からんが、他にできることもないな。行こう」
 そうして二人は、長く続く砂漠の石橋の上を歩き始めた。
 程なくして、二人は不自然に立っている扉を見つけた。
 建物があるわけでもなく、石橋の中央にぽつりとその扉があるのだ。
「あっ! 罠かも知れんぞ、ジュウゾウ殿!」
 エレナが止めるのも無理もない。重蔵は躊躇なく近づき、扉を開いた。
 扉の先には、一見すると普通の木造建築のような一室があった。
「……問題なさそうだ」
 部屋の中を一瞥して安全を確認すると、重蔵はそのまま部屋の中へと入って行った。
「待ち伏せされていたらどうするつもりだ」
「その時はその時さ」
 そういう重蔵はずいぶんと余裕そうな表情をしていた。
 歩くだけでぎしぎしと傷んだ木の板が音を立てるほど老朽化の進んだ部屋には、ソファーやカウンターなどがあり、見たところ宿泊施設のようにも見える。
「ジュウゾウ!」
 と、砲撃のような怒鳴り声が背後から鳴り響いた。重蔵は思わず振り向きざまに刀を抜いて構えた。
「ようやっと着いたか!」
 どかどかと大きな音を立てながら重蔵とエレナに近づいてきたのは、初老の剣士、ロッジであった。
「おっと。それ以上近づくな」
 重蔵は刀を下ろさず、それどころか剣先をロッジに向けた。外から漏れてくる日の明かりを受け、刀身がきらりと煌いた。重蔵に続き、エレナも腰の剣に手をかける。
「ジュウゾウ殿。これも幻術か?」
「いや、分からん。とりあえず斬ったら分かるかなと」
「おい、なにを物騒なことを言っている。ワシだ! ロッジだ!」
「ううむ。ロッジらしいが今さっきまで妙な幻を見せられていたわけだしなあ」
 必死に弁明しようとしているロッジを尻目に、重蔵はロッジをまじまじと見つつ、左手であごの髭をしょりしょりと撫でた。
「ロッジ。……その人がジューゾウですか?」
 と、ロッジの背後から一人の女性が現れた。燃えるような赤毛に、気品のある立ち振る舞いの、若い女性である。
「重蔵殿。どうやら本物のようであるぞ」
「そのようだな」
 エレナは剣の柄から手を離し、重蔵も刀を納めた。
 
「まずい! まずいことになったぞ!」
 魔法使い達を書斎に呼んだアルフレッドは、完全に冷静さを欠いていた。
「なぜエルヴィア第七兵団が動いている! それも俺になんの断りもなく!」
「誰かがルークの者共を討つように命じたのでしょうな」
「そんなことは分かっている!」
 ジンの言葉に、アルフレッドは怒鳴り声を上げた。
 重臣達からはまだ今回の件について問われてはいないし、スリアにも特別変わった様子はない。だが、確実に誰かが兵団を動かしていることに変わりないし、もしかすると、アルフレッドの目的が知られたのかもしれない。アルフレッドは不確定な見えない第二の敵に恐怖していた。
「それで、リンド姫たちは無事なのだろうな」
「はっ。ジンの魔法で姫君を、私の幻術で剣士たちを援護し、合流させました」
 と、幻術使いのハルスが答えた。
「うむ、さすがに女と老剣士だけでは兵団に殺されかねないからな。今回ばかりはルークの剣士が生き残っていてよかった。」
 唸り声を上げながら、アルフレッドはがしがしと頭をかきむしった。そして、気を落ち着かせるかのように、乱れた前髪をかき上げ、それから一度大きく息を吐いた。
「……しかし、どうしたものか。……兵団はお前達の存在に気づいていないのだろうな」
「おそらくは」
「……よし。なら、もうなりふり構うな。まずはリンド姫を手に入れ、それからルークの剣士どもは兵団に任せるとしよう」
「お待ちくだされ!」
 強化のスルト、幻術使いのハルス、千里眼のグレアの三人が、同時に叫んだ。
「陛下はルークの剣士を全員、ことごとく始末すれば、今後、魔法使い部隊の導入を本格的にすると申されました!」
 と、スルトが言う。
「ああ、確かに言った。既にルークの剣士を三人も亡き者にしたのだのだから、そのことについては、俺の権限を持ってして実現しよう。しかし、最も重要なのはリンド姫を手に入れることだ。兵団に先を越されてしまっては元も子もない」
「いえ、この戦いは最早、単にリンド姫を手に入れるためのものにございません!」
 ハルスが続いた。
「どういうことだ」
「ルークの剣士は魔法使いグラフを殺しただけではなく、その術を破ったからにございます」
 そう言われて、アルフレッドはこの魔法使い達が何を言いたいのかが分からなくなり、困惑した。しかし、明らかに理解できていないという顔をしているアルフレッドに構わず、ハルスは話を続けた。
「魔法使いたるもの、術の破られるということはあってはならないこと。グラフを殺した剣士は、単にグラフを殺しただけでなく、完全にグラフの術を看破していたのです。それだけでも魔法使いとしての誇りを踏みにじられたようなものなのですが、のみならず、やつはルークの剣士として魔法使いをことごとく打ち破ってみせると豪語したのでございます。これは我ら魔法使いに対する挑戦であり、この戦いは魔法使いと剣士、双方の誇りを賭けたものなのです」
「だが、リンド姫はどうするつもりだ」
「リンド姫は必ずや、我らの手で陛下のもとへ届けましょう。ただし、それはルークの剣士を一人残らず始末し、剣士に完全なる敗北を与えた後にございます」
「馬鹿いえ。そうやって時間をかけていた結果が今の状態ではないか」
「兵団には手を出させませぬ。姫君にも、剣士にも。双方、必ずや我らの手で!」
「……分かった。だが、俺はもう待つことはできない。この戦いには不安要素が多すぎる。……二時。二時だ。それだけ待ってやるがそれ以上はない。時間を過ぎても剣士を始末できないのであれば、先にリンド姫を手に入れてもらう。分かったな」
「ははっ! かしこまってござりまする!」
 と、魔法使い達はがばとひれ伏した。
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