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今は遠き夏の日々 ~学校七不思議編 その六~

三年四組のこっくりさんの噂

美術室から出ると、小夜子たちは来た道を戻って、二つ上の四階を目指した。

「どうせなら先に四階に行けばよかったな。また階段上がるのめんどくせえ」

と、夕美が愚痴をこぼした。
確かに、三階の音楽室から美術室ではなく、三年生の教室がある四階に行っていた方が、苦労しなくてすんだであろう。
そして、そう感じるのは夕美だけではなく、小夜子もそうであった。
校内があまりにも暑いこともあり、はしたなくも、ブラウスをばさばさと仰ぎつつ、蒸れる体を冷やした。

四階に上がると、小夜子は懐中電灯の明かりを右手側の廊下の先に向けた。

成上高校は、一学年につき六クラスあり、目的の教室は懐中電灯の先にある。一組や二組のように、校舎の端にあるわけでもなく、目的の三年四組へはすぐに到着した。

扉を開けて中に入り、教室内を懐中電灯で照らした。
当然ながら人の気配など全くなく、教室は実に静かで、やはりここもただ暗いだけ、人がいないだけ、と言う状態であった。
「あれ? そういえば、こっくりさんやる道具とかは?」

「大丈夫です。持ってきてますよ」

と、香苗は鞄から大きめの紙を取り出し、教室の中心にある机の上で広げた。
紙には、五十音表と、その上に鳥居、そして、『はい』と『いいえ』、『男』と『女』が、それぞれ鳥居の両側に、香苗のものではない字で書きこまれてあった。

「それじゃあ、さっそく始めますか」

言いながら、香苗がポケットから十円玉を取り出し、鳥居の位置に置いた。

それから三人は、人差し指を十円玉の上に軽く置いて、準備を完了させた。

「ではいきますよ。……こっくりさん、こっくりさん。おいでください」

「……」

「……こっくりさん、こっくりさん。おいでください」

三人は、じいと指先の十円玉を見つめた。

ところが、いつまでたっても十円玉は動かず、何も起きない。

「ふうむ……。やっぱり何も起きないか……」

「ちなみに、オカ研と検証に来たときはどうだったんだ?」

「いやあ、それが……。その時も心霊現象どころか、こっくりさんすら成功しませんでしたね」

「ふうん……。七不思議だと、この部屋でするこっくりさんは成功するはずなんだろ?」

「そうらしいんですけどねえ……。お札は見つかったのに……」

ふうむ、と腕を組み、香苗は考え込んだ。

その様子を見ながら、小夜子はテーブルの上に置かれた十円硬貨を手に取った。

「もしかして、お札を剥がした状態でこっくりさんをする必要があったとか、かな?」

唸る香苗の隣で、小夜子は硬貨を手の甲、指の上で弄びながら言った。

ぱたぱたぱた。

ぱたぱたぱた。

硬貨を指の間で、右へ左へと、小夜子は転がしていった。

「また美術室に行くっての? めんどいしあたしは嫌だね」

「――いや、ちょっと待ってください」

ため息をつく夕美に構わず、香苗は何かを閃いたのか、ぱあと顔を明るくさせながら、手のひらをぽんと軽く叩いた。

「もしかしたら、それじゃないですか!」

その声に驚き、小夜子は思わず十円玉を落としてしまった。

「え? なに?」

「お札です! あれに、変な絵が描いてあったじゃないですか」

「ああ。あったわねえ。痩せた動物の絵」

言われて、小夜子は護符に描かれていた二匹の獣の絵を、頭に思い浮かべた。

「お狗(いぬ)さまですよ! たぶん、ここで呼ばないといけないのは狐や狸じゃなくて、狗じゃないといけないんですよ! あのお札に描かれてあったお狗さま!」

「どういうこと?」

言いながら、小夜子は拾い上げた十円玉を右の手の平に載せた。それから、右の手のひらをなぞるように、左手をかざし、十円玉を消して見せた。
そして、左の手の平を見せたのだが、そこにも十円玉はない。
十円硬貨は、小夜子の右手から出てきた。

「そんな手品は今いいですから。……こっくりさん、って、漢字でどう書くか知ってます?」

「あれ? こっくりさんって、漢字でかけるの?」

「はい。狐、狗、狸、て書いて、こっくり、って書くんです。それで
美術室にあったお札に描かれてあったのがお狗さまなら、たぶん、この学校にいるのは狗だけなんですよ。だから呼ぶ時も、狗しか呼べないんだと思います!」

香苗は確信を持って言っているようである。
その様子を見て、小夜子は再び十円玉をテーブルの、紙の上に置いた。

「それじゃ、もう一回やる?」

「もちろん。……ではいきますよ」

と、三人は準備をすませた。
香苗、夕美、小夜子の順番に、指を十円玉の上に載せたのである。

「……お狗さま、お狗さま。どうかおいでください、お狗さま」

「……」

それから、じいと鳥居の上に置かれた十円玉を見つめた。

瞬間、場の空気が、変わった。

蒸し暑かった教室の空気が、

さあ……。

と、一瞬にして、背筋が凍るまでに冷たくなったのだ。

いや、それだけではない。

何かがいる。
正体はわからないが、確かにこの教室の中に、何かの気配がするのである。

と、香苗と夕美は息を飲んだ。

ゆっくりと、十円玉が、鳥居から離れたのである。

「や、柳瀬さん……。動かしてます?」

「ばか言え。アタシがそんなくだらない冗談やるわけないだろ。小夜子は?」

夕美は小夜子の顔を見た。

「……」

「小夜子……?」

明らかに、小夜子の様子がおかしかった。

まず、見開いた目が泳いでいた。
焦点が合っていないのか、まるで一点を見ておらず、ぐるぐると回っているのである。
その上、まさに滝の様としか形容できないほどに、あご先からぼたぼたと大きな汗の粒を流し続けていた。

「だ、だいじょうぶ、ですか? 牧原さん」

その様子を見た香苗が、小夜子に触れようとした。

「ちょっと待て。動くな」

と、それを夕美が止めた。
当然、指は十円玉に乗せたままである。

夕美は、香苗が見ているものとは別のものを見つつ、小夜子の口元に注目していた。

「……、……、……ふ、……ふ」

はじめ、それは小夜子がくるしそうな息遣いをしているようであった。

しかし、そうではなかった。

聞き取れないほどの声で、小夜子は何かを繰り返しつぶやいていたのである。

ごくり、と夕美は唾を飲んだ。
そして、この寒い教室の中で、嫌な汗をかいていた。

ひっ……!

と、小さく悲鳴を上げる香苗を見ず、夕美は手元の十円玉が動くのを感じた。

十円玉は、ゆっくりと紙の上を動き、一つ目の文字の上に乗った。

『ふ』

それから二秒ほどして、今度は別の文字の上に乗った。

『だ』

夕美と香苗は、そこで小夜子が何を言っているのか、初めて理解した。

彼女はさっきから、十円玉が繰り返し差すように、『札』、と繰り返しつぶやいているのである。

それとほぼ同時に、夕美は、十円玉に触れていない、小夜子の左腕に視線を移した。

そこには、美術室にあったあの護符が、握られてあった。
確かに、香苗が絵の裏に戻した護符である。

「……札が、どうしたんだ? お前は、札をどうしたい?」

夕美が小夜子に、いや、小夜子ではなくその背後に視線を向けながら、言った。

「……死ぬ」

と、小夜子の口が動き、今度ははっきりとした声で言った。
だが、それはガラスのように透き通った小夜子の声ではなく、低い、男の声であった。

「……一人死ぬ。……二人死ぬ。……いや、三人死ぬ」

男の声は、そう続けた。

その間、香苗は涙を流し続けていた。

「……お前は、誰だ? それは小夜子の体だ。お前のじゃない」

恐怖に震えながら、夕美は思い切ってしっかりとそう言い放った。

すると小夜子は、

にたあ……、

と気味の悪い笑みを浮かべ、

「ほら、死んだ……」

低い声でそう言った。

すると、小夜子は突然、がくりと崩れ、後の椅子や机に体を打ちつけながら倒れこんだ。

「小夜子!」

夕美は悲鳴を上げながら、倒れた小夜子のそばにより、その体を抱き上げた。

それを見た香苗は、あとすざりしながら、声を上げて泣き出した。

泣きじゃくる香苗には構わず、夕美はさっと小夜子の手首を掴んだ。

冷たい。
氷のように体が冷たい。
まるで死人のような冷たさである。

だが、鼓動はある。

生きている。

「小夜子! しっかりしろ!」

頭も打ったかもしれない。うかつには動かすことができない。

どうすればいいのか分からずおろおろしていると、

「……。……う、……ううん」

小夜子が意識を取り戻した。深い眠りについていたかのように、ほとんど覚醒していないのか、薄目を開けて目覚めたのである。

「小夜子!」

「……あ、あれ? ……ゆみ、ちゃん?」

左手で体を支えつつ、小夜子は起き上がろうとした。

と、その瞬間、小夜子は右手を口元に当てながら、身をよじって顔を床に向けた。

「どうした、小夜子!」

「……吐きそう」

う、う、と嗚咽を漏らしながら、小夜子は辛そうに顔を歪めた。

「トイレまでもちそうか?」

心配そうに声をかける夕美を見ないで、小夜子はふるふると頭を振った。

そして、吐いた。

胃の中にあったものではない。

黒く、もやもやとした煙のようなものを、小夜子の体の何倍もある量を吐き出した。

黒いもやは、そのまま空を漂いながら、廊下に向かい、消えた。

同時に、小夜子は再び気を失ってしまった。


混濁する意識の中、小夜子は目を覚ました。

「よかった……」

安堵のため息をこぼしながら嬉しそうにいう香苗と、目にたっぷり涙をためた夕美の顔が、小夜子の視界に写り込んだ。

「……夕美ちゃん。……泣いてるの?」

「ば、ばか! 泣いてなんかねえよ!」

慌てて袖で涙をぬぐう夕美を見て、小夜子は素直じゃないな、と心中で微笑んだ。

「ごめんね?」

「お前が謝ってどうするんだよ」

「……わたし、……どのくらい寝てた?」

言いながら、小夜子は体を起こした。

「分からないけど、そんなに長くないよ。……お前、起きて大丈夫なのか?」

夕美に体を支えられながら、小夜子は上体を起こし、床の上であぐらをかいた。
そして、ぽりぽりと頭をかきながら、一度あくびをした。

「うん。大丈夫。……ねえ、今何時?」

「え? 今ですか?」

と、香苗は自分の腕時計を見た。

「あれ? すいません。私の時計、止まってます」

「なんだよ、こんな時に……」

自分の腕時計を見ながら、夕美は目を丸くした。

「……ああ? アタシのも止まってる」

「わたしのも止まってるわね」

ポケットから懐中時計を取り出した小夜子も、同じであった。

「十一時十一分……。十一秒? で、時計が止まってる」

「……まじで? アタシのもなんだけど」

「ええ……? やめてくださいよ。わたしのも同じ時間なんですけど……」

ふと、手元に懐中電灯があることに気がついた小夜子は、明かりを黒板の上に向けた。

教室にかけられてある時計は、三人の持っている時計と同じように、針は十一時十一分十一秒を差して、止まっていた。

それを見た三人は、戦慄した。

「ところで、わたしはいつから寝ちゃってたんだっけ?」

言って、小夜子は思い切り気持ちのいい伸びをした。

「逆にさ、記憶があるのはいつまでだ?」

「ええと、カナちゃんの説明きいたとこあたりまで」

「じゃあ、こっくりさんする前ですか」

「え? こっくりさんした後じゃない?」

「いや、まあ、そうなるんだけど……。とりあえずどうするよ? 正直、今のこの学校にはヤバイ気配がするから、早いとこ出た方がいいと思うんだけど」

「……あ、あの」

と、香苗が恐る恐る、遠慮がちに手を挙げた。

「それって……。柳瀬さん。もしかして」

香苗の言いたいことは、夕美には目を見れば分かる。
それゆえに、今それを訊くのかと、ため息をついた。

「ああ、そうだよ。あたしはお前が思ってる通りの人間だよ。そんなこと、さっきここで起きたことを見りゃ分かんだろ」

「と言うことは……。と言うことはですよ……? その柳瀬さんが『ヤバイ気配』がするっていうことは……」

しん……。

と、教室の中が、静かになった。

緊張で、音が消え、空気がさらに重くなったのである。

二人の様子、二人のやり取りを見ながら、明らかに夏の夜の校舎とは違う、半そでのブラウスだけでは凍えてしまいそうな空気に、小夜子は身震いした。

「帰るの? 残りの七不思議は、検証しない?」

「ばか。もうそんなこと言ってられるような状況じゃないんだよ」

そういう状況だからこそ、検証する意味があるのではないか、と考えながらも、しかし夕美の表情に余裕が見られないため、小夜子はとりあえず彼女に従おうと考えた。

「分かったけど……。その前に行っておきたいとこがあるわ」

言いながら、小夜子は立ち上がった。

「行きたいとこ? どこですか?」

「カワヤ!」

「……お、おまえ。……がまんしろよ、それぐらいよお」

「やーよう。漏らすわけにもいかないじゃない」

はあ……、と夕美はため息をつき、香苗ですら呆れた顔をした。

しかし、それでも小夜子は懐中電灯を扉に向けて、歩き始めた。
















と、いうことで
今回からようやく話が動き始めます

こっくりさん
やったことないなあ……
あれは集団催眠・暗示ってことで
一応、解明されたことになっているけど

試してみない事には何とも言えないよね

まあ、怖いからやだけど
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