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今は遠き夏の日々 ~学校七不思議編 その七~

 トイレの花子さんの噂

一歩。
たった一歩、廊下に出ると、さすがの小夜子ですら凍りついた。

もはや、空気が違うなどと言う次元の話ではなく、別世界が広がっているのである。

先の見えない筒は、それまでと同じ姿に見えて、しかし全く違っていたのであった。

小夜子は、懐中電灯を廊下の先に向けた。
その光の線は、目の前に壁でもあるかのように、闇に埋もれてしまった。
いや、あるいは、大きな口を開けた得体の知れないモノが、三人を誘っているようにも見える。
その上、どこまでも続いていそうな深い闇そのものが、恨めしそうにこちらを見つめているかのような気配すらしていた。

ごくり、と唾を飲み込むと、小夜子は明かりを来た道に向けた。
四階の廊下の端、音楽室や美術室と同じ位置には空き教室があり、その手前にトイレがある。
各階も同じつくりであるため、同じ位置に男子トイレと女子トイレが並んでいるのだが、小夜子はそこに向かって歩き始めた。

三年四組の教室からトイレに到着するまでは、それほど時間がかからなかった。

小夜子は女子トイレの中に入り、壁際にある照明のスイッチを入れようとした。

「あれ? 電気つかない」

「男子トイレもつかねえな」

念のため、と男子トイレの照明を入れようとするも、どちらも明かりがつかない。

「ライトは小夜子が持ってなよ。ションベンすんのに困るだろ」

「ちょっと。お下品ですわよ夕美さん」

「やかましい。外で待ってるから早くしなよ」

そして、夕美と香苗は女子トイレから出ようとした。

「……え? 外でるの?」

「当然だろう?」

「ええええ……。一人にしないでよお……」

出口扉のドアノブに手をかける夕美に、小夜子は思わず、情けない声で言った。

「ガキじゃねえんだから、一人で大丈夫だろうよ」

「こんな真っ暗な中で一人っきりにするとかどういうことよ!」

「やかましい! ライト渡してんだから我慢しろよ! こっちはライトないんだから!」

「ちょっ、ちょっと、二人とも。喧嘩しないでくださいよ。こんな時にこんなところで」

はあ、と小夜子は深呼吸をして、気を落ち着けた。

それから、懐中電灯を個室に向けた。
個室は全部で四つある。
一番手前の個室を開けて中を照らすと、小夜子は目の前の光景を気味が悪いと感じた。
特別、何かがそこにいるわけでも、何かの気配を感じるわけでもないというのに、である。

「ふうぅぅう!」

と、怖さを紛らわすために、小夜子は奇声を発した。
そして、振り返って夕美と香苗の方を見た。

「そこいてよ! 絶対そこにいてよ!」

「はいはい。いいからさっさと済ませな」



小夜子が個室に入り、鍵を閉めた後の事であった。

柳瀬夕美は、ふと、本当に何とはなしに、視線を女子トイレの一番奥に向けた。

用具入れの、手前の個室の戸が、閉まっている。

その三つ隣が、小夜子の入った個室で、小夜子が入った個室も、戸が閉まっている。

残りの個室は、全て戸が開いた状態であった。

それを見た夕美は、あることに気がつき、戦慄した。

何度となく使った、この学校のトイレである。
鍵を掛けなければ、戸は蝶番(ちょうつがい)のバネによって、自動で開きっぱなしになる構造であることを、知っている。

知っていたからこそ、血の気が引いたのである。

戸が閉まっているということは、鍵がかかっているということ……。

夕美は、ほとんど自分では何も考えず、誘われるように、奥の個室に近づいた。


と、赤い印を見せているノブに、手を触れようとした時、

きい……、

戸がひとりでに、

ゆっくりと、

開いた。

瞬間、耳鳴りがした。

周りの音など一つとして聞こえはしない。

同時に、体が全く動かなくなった。

そして、夕美の視線は、個室の中に釘付けになった。

暗い、ぬらりとした暗さの、小さな部屋。
和式の便器が一つあるだけの、個室である。

ふいに、耳鳴りではない音が、聞こえてきた。

遠く、どこから聞こえているのか分からないほど遠くから、その音は聞こえてきた。
次第に音は、大きくなっていき、夕美はそれが、赤ん坊の泣き声であることに気がついた。

気がつき、息が詰まった。

ごぼ……。ごぼり……。
便器の中の水が逆流しているのか、妙な水音がする。

赤ん坊の泣き声が、どんどん大きくなり、夕美はそれが、どこから聞こえてきているのかに気がついた。

ごぼ……。ごぼり……。
便器から水が溢れ出した。
いや、水ではない。
暗闇の中だというのに、それが赤黒いことが、なぜか分かる。

泣き声は、夕美の足元から聞こえていた。
そのことに、夕美は気がついたのである。

便器から、一本の小さな手が――。
 

くふふ……。


手を洗った後、小夜子は夕美が、奥のトイレを前にして立ち尽くしていることに気がついた。

「夕美ちゃん?」

そう、声をかけながら、夕美の足元を懐中電灯で照らすと、はっ、と我に返ったように、夕美はびくりと小さく身をはねさせてから、振り返った。

「どうしたんですか? 柳瀬さんもトイレですか?」

小夜子の声に気がついたからか、後ろの香苗も、同じように不思議そうな顔をしていた。

「あっ……。いや……」

と、夕美が、再びトイレの中に視線を移した。

何か、気になることがあるのだろうか。

小夜子は夕美の隣に立ち、一番奥の個室の中を、懐中電灯で照らした。

ところが、特に変わった様子もなく、そこには洋式便器やトイレットペーパーの束があるだけであった。

「どしたの? 何か気になるの? それとも、トイレの花子さんでも見えるの?」

「え? やめてくださいよ、二人とも。この状況で冗談とかシャレにならないんですけど」

「ああ、すまん。なんでもない。気のせい気のせい」

いつも通りの、普段通りの表情で、夕美は返した。

「そう? ならいいけど」







過去に投稿した際、文字数ページ数の制限で泣く泣くカットしたシーンを、一から書き起こしました。

私の中の花子さん像は、映画『学校の怪談』シリーズに登場する、
腰まである黒い長髪と、真っ赤なワンピースの、裸足の少女。
あのビジュアルは洗練されていて、実に印象深い。
「くふふ……」

まあ、このこと自体は何度となく書いてはいるんですが


さて、そこに来て
『今は遠き夏の日々』に登場する花子さん
スパイクの名作ホラーアドベンチャーゲーム『夕闇通り探検隊』に登場するカスカちゃんの影響も大きいが、やはり、根幹にあるのはあの花子さんだ。
あんな花子さんを書いていきたい。

もっとも、この作品で登場させているのは
トイレの花子さんっていうわけでもないですけど
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