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別館
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トイレの花子さんの噂 一歩。 たった一歩、廊下に出ると、さすがの小夜子ですら凍りついた。 もはや、空気が違うなどと言う次元の話ではなく、別世界が広がっているのである。 先の見えない筒は、それまでと同じ姿に見えて、しかし全く違っていたのであった。 小夜子は、懐中電灯を廊下の先に向けた。 その光の線は、目の前に壁でもあるかのように、闇に埋もれてしまった。 いや、あるいは、大きな口を開けた得体の知れないモノが、三人を誘っているようにも見える。 その上、どこまでも続いていそうな深い闇そのものが、恨めしそうにこちらを見つめているかのような気配すらしていた。 ごくり、と唾を飲み込むと、小夜子は明かりを来た道に向けた。 四階の廊下の端、音楽室や美術室と同じ位置には空き教室があり、その手前にトイレがある。
各階も同じつくりであるため、同じ位置に男子トイレと女子トイレが並んでいるのだが、小夜子はそこに向かって歩き始めた。 三年四組の教室からトイレに到着するまでは、それほど時間がかからなかった。 小夜子は女子トイレの中に入り、壁際にある照明のスイッチを入れようとした。 「あれ? 電気つかない」 「男子トイレもつかねえな」 念のため、と男子トイレの照明を入れようとするも、どちらも明かりがつかない。 「ライトは小夜子が持ってなよ。ションベンすんのに困るだろ」 「ちょっと。お下品ですわよ夕美さん」 「やかましい。外で待ってるから早くしなよ」 そして、夕美と香苗は女子トイレから出ようとした。 「……え? 外でるの?」 「当然だろう?」 「ええええ……。一人にしないでよお……」 出口扉のドアノブに手をかける夕美に、小夜子は思わず、情けない声で言った。 「ガキじゃねえんだから、一人で大丈夫だろうよ」 「こんな真っ暗な中で一人っきりにするとかどういうことよ!」 「やかましい! ライト渡してんだから我慢しろよ! こっちはライトないんだから!」 「ちょっ、ちょっと、二人とも。喧嘩しないでくださいよ。こんな時にこんなところで」 はあ、と小夜子は深呼吸をして、気を落ち着けた。 それから、懐中電灯を個室に向けた。 個室は全部で四つある。 一番手前の個室を開けて中を照らすと、小夜子は目の前の光景を気味が悪いと感じた。 特別、何かがそこにいるわけでも、何かの気配を感じるわけでもないというのに、である。 「ふうぅぅう!」 と、怖さを紛らわすために、小夜子は奇声を発した。 そして、振り返って夕美と香苗の方を見た。 「そこいてよ! 絶対そこにいてよ!」 「はいはい。いいからさっさと済ませな」 小夜子が個室に入り、鍵を閉めた後の事であった。 柳瀬夕美は、ふと、本当に何とはなしに、視線を女子トイレの一番奥に向けた。 用具入れの、手前の個室の戸が、閉まっている。 その三つ隣が、小夜子の入った個室で、小夜子が入った個室も、戸が閉まっている。 残りの個室は、全て戸が開いた状態であった。 それを見た夕美は、あることに気がつき、戦慄した。 何度となく使った、この学校のトイレである。 鍵を掛けなければ、戸は蝶番(ちょうつがい)のバネによって、自動で開きっぱなしになる構造であることを、知っている。 知っていたからこそ、血の気が引いたのである。 戸が閉まっているということは、鍵がかかっているということ……。 夕美は、ほとんど自分では何も考えず、誘われるように、奥の個室に近づいた。 と、赤い印を見せているノブに、手を触れようとした時、 きい……、 戸がひとりでに、 ゆっくりと、 開いた。 瞬間、耳鳴りがした。 周りの音など一つとして聞こえはしない。 同時に、体が全く動かなくなった。 そして、夕美の視線は、個室の中に釘付けになった。 暗い、ぬらりとした暗さの、小さな部屋。 和式の便器が一つあるだけの、個室である。 ふいに、耳鳴りではない音が、聞こえてきた。 遠く、どこから聞こえているのか分からないほど遠くから、その音は聞こえてきた。 次第に音は、大きくなっていき、夕美はそれが、赤ん坊の泣き声であることに気がついた。 気がつき、息が詰まった。 ごぼ……。ごぼり……。 便器の中の水が逆流しているのか、妙な水音がする。 赤ん坊の泣き声が、どんどん大きくなり、夕美はそれが、どこから聞こえてきているのかに気がついた。 ごぼ……。ごぼり……。 便器から水が溢れ出した。 いや、水ではない。 暗闇の中だというのに、それが赤黒いことが、なぜか分かる。 泣き声は、夕美の足元から聞こえていた。 そのことに、夕美は気がついたのである。 便器から、一本の小さな手が――。 くふふ……。 手を洗った後、小夜子は夕美が、奥のトイレを前にして立ち尽くしていることに気がついた。 「夕美ちゃん?」 そう、声をかけながら、夕美の足元を懐中電灯で照らすと、はっ、と我に返ったように、夕美はびくりと小さく身をはねさせてから、振り返った。 「どうしたんですか? 柳瀬さんもトイレですか?」 小夜子の声に気がついたからか、後ろの香苗も、同じように不思議そうな顔をしていた。 「あっ……。いや……」 と、夕美が、再びトイレの中に視線を移した。 何か、気になることがあるのだろうか。 小夜子は夕美の隣に立ち、一番奥の個室の中を、懐中電灯で照らした。 ところが、特に変わった様子もなく、そこには洋式便器やトイレットペーパーの束があるだけであった。 「どしたの? 何か気になるの? それとも、トイレの花子さんでも見えるの?」 「え? やめてくださいよ、二人とも。この状況で冗談とかシャレにならないんですけど」 「ああ、すまん。なんでもない。気のせい気のせい」 いつも通りの、普段通りの表情で、夕美は返した。 「そう? ならいいけど」 過去に投稿した際、文字数ページ数の制限で泣く泣くカットしたシーンを、一から書き起こしました。 私の中の花子さん像は、映画『学校の怪談』シリーズに登場する、 腰まである黒い長髪と、真っ赤なワンピースの、裸足の少女。 あのビジュアルは洗練されていて、実に印象深い。 「くふふ……」 まあ、このこと自体は何度となく書いてはいるんですが さて、そこに来て 『今は遠き夏の日々』に登場する花子さん スパイクの名作ホラーアドベンチャーゲーム『夕闇通り探検隊』に登場するカスカちゃんの影響も大きいが、やはり、根幹にあるのはあの花子さんだ。 あんな花子さんを書いていきたい。 もっとも、この作品で登場させているのは トイレの花子さんっていうわけでもないですけど PR コメントを投稿する
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