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別館
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白服怪人の噂
六月二十六日木曜日。 「柳瀬さん! 一条さん! 変な噂を聞いちゃいました!」 香苗の眼をきらきらと輝かせているのは、好奇心の光であった。 「へえ、どんなの?」 好奇心は好奇心を呼ぶ。楽しそうにする香苗を見て、小夜子の中でも興味が湧いているようであった。だからこそ、彼女は手に持っていた箸を一度置き、耳を傾けた。 「どんなでもいいよ。それが面倒事じゃなけりゃあさ」 夕美にしてみれば、どんな内容であれ、噂話と言うものは、大抵の場合はデマか、あるいはろくなものではない。もそもそと焼きそばパンを頬張りながら言った。 「面倒かどうかは別として、駅前通り関連の新しい噂なんですけどね」 「駅前通り? あの辺りってほんとに変なことよくあるよね。デパート工事も止まるし」 「ですよねー。とにかく、最近、駅前通りの方で変な人が出るって話なんですよ」 駅前通りと言えば、成上市の商業地区のことである。 元は成上駅前の小さな商店街だったのだが、成上町が近隣の町と合併したことに伴う市への昇格により、都市開発が進められ、繁華街となったのである。そうした歴史があり、今でも『駅前通り』と呼ばれているのだが、ともかくとして、成上駅よりも南側は、現在でも商業地区としての発展を続けており、中心街から外れた場所にある古い建物を取り壊しては、背の高い、真新しい店を建てている、そう言った場所であった。 「ああ、さすがにその話はあたしでも知ってらあ」 興味がわいたわけではないが、夕美は口を挟んだ。 成上市は、街の開発が進むにつれて、妙な噂が増えていた。近ごろ多発している事故や事件が、少々普通ではないということを、夕美は気にしていたのである。 「あれだろ? 商店街の路地裏とかで、残飯あさってる男がいるとかって話だろ?」 と、夕美が言うと、香苗は舌を鳴らしながら人差し指を振った。 「柳瀬さん、ジョーホーが古いですよ。それ、もうだいぶ前の話です」 言われて、腹立つ女だな、と夕美は眉をひそめた。 「その残飯男、確か亡くなったのよね。つい最近。しかも変死したんだったかしら?」 「ああ? 変死? そうなのか?」 「本当に知らないんですね。あれですよ。どうやって侵入したのか、まだ分かってないらしいんですけど、市長の自宅で死んだらしいです。しかも、死んだ残飯男の首には、獣に噛み切られた跡があったらしいんですけど、獣が侵入した形跡もないとかなんとか」 香苗は、得意げにぺらぺらとしゃべっていた。 「で? 今回のはそれと違うんだろ?」 食事中に気持ちの悪い話だ、と思いながら、夕美が最初の話題に戻した。 「そうでした。……私も今日きいたばっかりなんで、まだ本当のところは分からないんですけど、最近、駅前通りの中心部ら辺に、真っ白な服を着た人が出没するんですって」 「真っ白な服の人?」 「聞いた話だと、毎日同じ場所、同じ時間に、全く同じ白い服を着た男が現れるらしいんです。白い帽子に、白いスーツと、白い革靴の、全身白ずくめの男。しかも、バラの花束を持ってうろついているんだとか」 言われて夕美が想像したのは、さらにサングラスをかけたひげ面の男である。 「……それって、ちょっと危ない感じの仕事してるような人なんじゃないの?」 「私も最初そう思いましたけど、考えてみてくださいよ。仮にやく丸さんだとして、じゃあなんで繁華街なんて人の集まる場所で、やたら目立つ格好して現れるんです?」 「それに、いつも同じ時間、同じ場所っていうのも気になるわね」 「でしょー? 気になりますよねえ? それから、その白服の怪人を見かけると、なんかいろいろとおかしなことが起きるらしいですよ。三組の男子は宝くじが当たったとか言ってましたし、四組の卓球部の子なんか、その人見た次の日に事故にあって入院したとか」 「へえー。幸も不幸も両方とも呼んじゃうってわけねえ」 と、小夜子は頷いた。そして、新しい玩具をもらった子供のような目をして顔を上げた。 「じゃあ、調べてみようよ。面白そうだし。それに、一昨日は参加できなかったし」 「あたしは反対だね。極力、危ない目に合わなさそうな話にしようぜ」 | カレンダー
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